(第632回)
 すでに東京中日スポーツにも掲載されているが、17日夜、東京のホテルで今年のル・マン24時間耐久レースを制したアウディのドライバー、アンドレ・ロッテラー選手の祝勝会が持たれた。その日に買いに走ったスーツに身を包んだロッテラーは満面の笑み。

 ところでアウディ主催のこの会にトヨタのドライバー中嶋一貴選手がお祝いに駆けつけた。中嶋といえばル・マンではロッテラーの乗るアウディR18に対抗してトヨタのTS030 HYBRIDで戦いを挑んだライバル。日本でもフォーミュラ・ニッポンでトムスチームのチームメートとしてやいばを交えている。2人は気心も知れた仲だけに会は和気あいあいだった。

 ここで感じたのはアウディとトヨタの懐の深さだ。トヨタはル・マンで打ち負かされたアウディに対してよくぞ祝福の気持ちを伝える決心をしたと思うし、アウディはそのトヨタの申し出をよくぞ受け止めたと感心した。一つ間違えば、トヨタはアウディにへつらっているとか、アウディは日本だからトヨタの申し出にノーが言えなかったとか、裏を勘ぐる者が必ず出てくる。しかし、今回の会ではそんな陰険な空気は感じる事がなく、気持ちのいい会だった。

 そもそも天下の2大自動車メーカーが、それも片方のメーカーの会で仲良く膝を交えるということは、普通なら考えられない。祝勝会といってもアウディにとれば広報、マーケティングのツールとしての役割を果たすわけで、まさかトヨタにそのツールを奪われるとは考えられないにしても、ギリギリのところでの判断だったと思う。結果的に会は成功し、両社、特にアウディの株は上がったといえよう。

 最後に、あえて一言付け加えさせていただければロッテラーと中嶋のジャケットの胸にAUDIとTOYOTAというロゴがあった方が良かったように思った。両選手は両自動車メーカーを代表する顔という役割が、その方がより鮮明であり、会の趣旨が明確に伝わったのではないだろうか。

 10月には富士スピードウェイでWEC(世界耐久選手権)が開催される。アウディもトヨタもル・マンで戦ったクルマを持ち込んで再び相まみえる。もちろんロッテラーも中嶋もステアリングを握る。今回のアウディ+ロッテラー選手の祝勝会はある意味富士WECに向けての両者、両選手の決意表明の場であったともいえるいい会だった。(モータースポーツジャーナリスト)