(第633回)
 先週のF1ドイツGPでは小林可夢偉選手が4位に入賞して盛り上がったが、アメリカでは佐藤琢磨選手がさらに上位の2位に入って、実力のあるところを見せつけた。

 F1からインディカーに行って今年で3年目を戦う佐藤選手だが、インディ500のあわよくば優勝という際どい勝負も含めて、これまで蓄積された実力が発揮され始めてきたように思う。インディとF1は全く異なるレースだと思う。若くて速いドライバーが勝利を収めるのは非常に難しい。それはレースの性質によるのだろう。F1のようにチームの作戦がほとんどで、あとはタイヤとピットインの優劣で勝負が決まるレースに比べ、インディはもっと人間のネーチャーが表面に出てくるレースに思える。

 ネーチャーといっても自然のことではなく、その人を作り上げる本質、本性、性向、気質といったものだ。インディを走るドライバーを見ていると、そのことがよく分かる。それは、レースの形態、特に距離の短いオーバルを何十周も何百周も回り続ける形態が、人間の本性や気質といったものを引き出すからかもしれない。同じ作業をライバルと競いながらまるで永遠のように続けることができる人間は、よほど頑強な精神と冷静な心を持っていなくてはならない。これは天才でない限り若くして成し遂げられることではないと思う。

 佐藤選手はそういう経験を積み、ドライバーとしてだけでなく人間として成熟したポイントに達したのかもしれない。それが、インディレースのこれまたネーチャーにつながり、走りに表れてきたのではないか。ヨイショするつもりはないが、ある程度の成熟点に達した人間(佐藤選手)が戦う姿を見るのは気持ちがいい。その走る姿から彼がこれまで経験してきた全てが見えるからだ。若さゆえの速さはキリキリと痛みを伴うが、経験に裏打ちされた速さはどっしりとした揺るぎなさを感じる。恐らく佐藤選手はそのことを自覚しているはずだ。それが走りの自信につながっているのだと思う。(若者みたいなクラッシュもあるけどね)(モータースポーツジャーナリスト)