(第634回)
 現在F1にタイヤを供給しているピレリは当初の計画なら2011年から13年までの3年間にわたって活動を展開するはずだった。ところが、現時点では14年以降にピレリに代わってF1へタイヤを供給しようというメーカーは現れておらず、ピレリの供給継続がうわさされている。

 ピレリのF1への参入は、ブリヂストンの撤退に絡んで急きょ浮上したもので、おかげでF1はレースを継続できた。F1がいかに素晴らしいスポーツであっても、クルマを使うスポーツである限りタイヤがなくては成り立たない。加えて寿命の短いタイヤの開発で、F1はがぜん接戦が多くなり、競争というスポーツ本来の姿を取り戻しつつある。ひとつの要素で戦いの形が変わるようではなにをか言わんやだが、タイヤがクルマを構成する要素の中で唯一地面と接するパーツであることを考えれば、それも仕方ないことかもしれない。ましてやレースが面白くなってきたのだから、ここで文句をいう筋合いではないだろう。

 ところがここに来て、14年以降のピレリの去就が話題になりはじめた。というのは、ミシュランの復帰がうわさになりはじめたからだが、ミシュランが出て来てピレリが撤退するという簡単な問題ではない。ミシュランは復帰の条件として、2社以上のタイヤメーカーによる競争が存在することを挙げているからだ。つまり、ピレリが残ればミシュランは再びF1に出てくるという条件を突きつけている。

 しかしミシュランのこの考えに真っ向から反対しているのがピレリだ。ピレリはF1がタイヤ競争によって翻弄(ほんろう)されるのは決して望ましい姿ではないとして、もしミシュランの参入が現実になり再びタイヤ戦争が始まるなら予定通り13年限りの撤退を示唆している。

 ピレリの責任者ポール・ヘンブリーは「我々はタイヤ戦争の愚かさをすでに経験している。0.5秒タイムを縮めるために何億円もの経費を使うようなことがいかにムダかを知っているはずだ。それでいて必ずベストなタイヤが手に入るとは限らない。05年のアメリカGPの混乱がいい例だ。観客はタイヤ戦争に興味は持っていない。チームだって同様だ。タイヤメーカーはまず安全をうたうことをしなければならない。それが性能向上につながり、レースを面白くする。それこそタイヤメーカーがF1に参戦している理由だ」と言う。私は、ヘンブリーの言い分は筋が通っていると思うが。(モータースポーツジャーナリスト)