(第635回)
 F1チームは先のハンガリーGPでシーズン前半戦を終え、8月には夏休みに突入した。9月のベルギーGPが後半戦の開幕。それまでチームスタッフは長期休暇だ。この長期夏期休暇が導入されたのは数年前からだが、それ以前は休みはあっても実質的にはチームの工場は稼働しており、従業員はゆっくり休みを取ることができなかった。それがすっかり様変わりした。

 そもそも長期夏期休暇が導入されたのはコスト削減のため。1年中働きづめで、相手チームのスキを突いて新技術を導入するために、チームのスタッフは働きアリのごときだった。それがコスト削減の一環として夏の間は工場を閉めるというルールを国際自動車連盟(FIA)が決めてからチームスタッフは仕事に惑わされることなく、しっかり休みが取れることになった。

 とはいえ、競争の世界では抜け駆けするやからが必ず出てくる。それを防ぐために、FIAは厳格なルールを設けた。工場は完全に閉鎖。その間はチームのサーバーも完全に停止状態にすること。つまり、スタッフ同士、あるいは外部からのメールも遮断されるということだ。ここまで徹底しないと抜け駆けはなくならない。FIAは過去の経験からそのことを知っていた。もちろんサーバーを止めても抜け駆けするやからが出てくるだろう。休み前に大量の資料を自宅に持ち帰り、個人メールを使ってエンジニア同士が技術開発に関して連絡を取り合うこともできる。まあFIAもそこまでは監視しない。

 だがこのシステムは明らかに功を奏している。休み中に新しいアイデアに行き着いても、それを実験する装置は使えない。エンジニアは休みが明けるのを自宅でイライラしながら待つ他はないからだ。

 本来の目的であるコスト削減も大いに期待できる。工場での電気の使用量も大幅に減る。つまり、レースカーにかける費用が低減されるだけでなく、社会的な観点からもコスト削減、環境改善が(結果的に)なされるということだ。もし日本にF1チームの大半が存在していたら、政府・東電は大喜びしていたに違いない。まあ、それは冗談としても、F1のような世界的に注目されるスポーツがこうして社会的な動きをすることで、世間の関心はより集まるだろう。

 FIAもまさか社会的貢献を考えて夏期休暇中の工場閉鎖を決めたわけではなかろうが、まさにヒョウタンから駒が出たということになった。考えはとどめておかず、活動に移してみるものだ。(モータースポーツジャーナリスト)