(第637回)
 ル・マン24時間から2カ月以上のブランクで、今週末英国でWEC第4戦が行われる。WECといえばわが国では1982年から88年まで富士スピードウェイで開催され、素晴らしい盛り上がりを見せた(86年以降はWSPCと名称変更)。1000馬力といわれるエンジンを搭載したポルシェやジャガーのワークスチームが飛来、それを日産、トヨタのワークスチームが迎え撃った。85年には星野一義、松本恵二、故萩原光がドライブするマーチ日産が総合優勝。鈴鹿サーキットでF1が始まるのは87年からでWECはF1ブーム前のわが国のモータースポーツをけん引する重要な役割を担っていた。

 今年ル・マン主催者のACO(フランス西部自動車クラブ)と国際自動車連盟(FIA)が手を組み、新シリーズとして始まったWEC。日本からはトヨタがワークスチームとして出場し、長年このシリーズに君臨するアウディに挑戦状をたたきつけている。それもトヨタの誇るハイブリッド技術を搭載したクルマだけに今後のモータースポーツが進むべき道を示唆する意味もあり、大いに価値ある挑戦として世界的に高く評価されている(トヨタ社内で盛り上がりに欠けるのが残念)。

 それにしてもトヨタやアウディがWECに挑戦する姿を見てモータースポーツが本当に自動車技術の発展に貢献していることをつくづく感じる。例えば97年にプリウスが世の中に出たとき、我々が理解したハイブリッドという技術と現在のプリウスが搭載するハイブリッド技術では、その内容に雲泥の差がある。その差(進化の差と言った方がいいか)はモータースポーツを通して発展・進化してきたものと理解していいだろう。モータースポーツに採用する技術は勝つための技術だ。勝てる技術を作り出すため技術者は寸暇を惜しみ仕事に没頭する。そしてレースに勝てる技術はつまるところ最も効率のいい技術であり、それはそのまま市販車が欲している技術でもある。レースを戦うクルマと市販車が搭載している技術は求めるものが異なるが、根幹にある精神は同じだ。

 シルバーストーンのWECには2台のアウディR18、1台のトヨタTS030 HYBRIDを含め37台ものクルマが集まった。10月の富士における6時間レースの前哨戦的な意味合いのあるこのレース(サーキットの特性など)。トヨタがアウディの連勝を阻めるかという興味ある戦いになる。もしそれがかなえばTHS(トヨタハイブリッドシステム)は大きく一歩進んだことになるからだ。(モータースポーツジャーナリスト)