(第638回)
 いよいよ電気自動車(EV)による本格的な国際レースが幕を開けるのだろうか? 先日発表された国際自動車連盟(FIA)による電気自動車レースの開催予告は、その予兆を感じさせるものだ。このシリーズは「FIAフォーミュラE選手権」と呼ばれるもので、2014年から本格的に開催が検討されている。

 主催者はフォーミュラEホールディングス(FEH)と呼ばれる合弁会社で、ロンドンをベースにするビジネスマンのエンリケ・バヌエロス氏、元GP2オーナーのアレハンドロ・アガグ氏、ドレイソン・レーシング・テクノロジー(DRT)のポール・ドレイソン卿、そしてフランスのEV会社エレクトリック・フォーミュラ社のエリック・バルバロウ会長が共同で設立した。代表はアガグ氏。DRTがこの新しい選手権の技術的なアドバイスをする。

 しかし、心配はある。この新しいEV選手権の立ち上げに関しては、自動車メーカー、電気系メーカーが一社も参加していない点だ。レーシングカー、特にフォーミュラカーは自動車メーカーでなくても造ることはできるが、EVに使う心臓部のモーターや電池の開発となれば、やはりそれなりの知識、経験、技術を持った企業の参加が必要だといえないだろうか。このFEH発足に集まった人たちは、「金があればなんでもできる」と考えている人たちではないかという点が危惧されるのだ。この中の1人は、「計画がうまくいってレースが価値あるものだと分かったら自動車メーカーも興味を示すだろう」と言う。そしてドレイソン卿は「この選手権は世界で初めての真のサステイナブル(持続可能)なものになるはずだ」と自信をのぞかせる。

 FEHはこの選手権を2014年から本格的に世界の主要都市で開催したい意向だ。FIAのジャン・トッド会長は「FEHが始めるEVレースは将来に向け大変に価値のあるシリーズだ。FIAはこの新しい選手権をFEHと共に推進できることを大変喜んでいる」とコメントしている。FIAはこの選手権の商業権がFEHにあることを許可した。

 2014年からこの選手権を開催する都市にはモナコ、香港、シドニー、ケープタウン、モスクワ、メキシコ市、ロサンゼルスの名前が挙がっている。加えてこのレースの誘致に熱心なのがブラジルのリオデジャネイロ。すでに市長がFIAのトッド会長に会い、誘致を発表している。

 こうした動きを見ると、FIAもいよいよEVレースに重い腰を上げたと言えるが、先に書いたように、EVで先行する自動車メーカーからの支持が聞こえてこない点、そしてFEHを取り巻く典型的なヨーロッパ・ビジネスのやり方には一抹の不安が残る。果たしてFIAはどこまで本気でEVレースをやろうとしているのだろうか?(モータースポーツジャーナリスト)