(第641回)
 アウディはディーゼルハイブリッド車の「R18e−tron quattro」と、ノーマル・ディーゼル車「R18ultra」の計2台で世界耐久選手権(WEC)を戦ってきたが(ルマン24時間とスパ6時間を除く)、来週末の第6戦バーレーン6時間から2台ともquattroにすると発表した。

 理由は2つ。まず先週ブラジル・サンパウロで行われた6時間レースでトヨタの「TS030 HYBRID」に完敗したこと。次にマニュファクチャラー選手権はすでにアウディが獲得したが、ドライバー選手権は確定しておらず、全戦quattroに乗ってきたロッテラー/ファスラー/トレルイエ組と、これまでultraで参戦していたクリステンセン/マクニッシュ組を真正面から戦わせるため。現在はロッテラー組がクリステンセン組に7.5ポイントの差をつけている。

 本当の狙いは前者だと私は思う。WEC参戦1年目で素晴らしい俊足ぶりを見せるトヨタに危機感を抱いたのだろう。過去10年以上にわたり、耐久レースの王者に君臨してきたアウディが初めて強敵を迎えたのだ。

 アウディのウルフガング・ウルリッヒ監督はルマンでトヨタの速さを認識したに違いない。そしてサンパウロで敗れ、心配が現実になった。その対応策として2台ともquattroに切り替えた。

 ハイブリッド車は、レースでトラフィックを乗り越えて前に出るとき、大きなアドバンテージを持つ。強烈なトラクションと加速。さまざまなカテゴリーのクルマが同時に走るWECでは、この追い抜き性能が成績に大きく影響する。アウディはなりふり構わぬ作戦に出たというわけだ。それはトヨタの想定外の速さがきっかけだ。

 チームメート同士のタイトル争いも、同じ条件でやってほしいというドライバーの希望もあったのだろう。性能の異なるクルマを与えられたレースでは初めから結果が見えているところがあり、性能の劣るクルマに乗るドライバーが納得しないのも分かる。その声に対応し、ライバルであるトヨタを押さえ込むための戦略になるという、一石二鳥の結論を導き出したというわけだ。

 シーズン終盤に向け、その対決はし烈を極めてきた。国際自動車連盟がもくろんだ図式はその想定通りに進みはじめたようだ。この調子なら今年の残りレース、そして来年の盛り上がりは約束されたといっても過言ではなかろう。(モータースポーツジャーナリスト)