(第642回)
 小林可夢偉の来季の行き先が不透明となり、日本のF1ファンはヤキモキしている。私もこんな状況が降りかかるとは思っていなかったから、いささか驚いているが、よく考えてみるとそこにいくつかの理由があることにも気づく。

 小林は今年ザウバーで3季目を走っているが、本人が言うに「持ち込みスポンサーはいない」。これはF1に乗る若手ドライバーとしては異例のことで、ザウバーが小林の才能を高く評価した結果だ。小林はその前年、撤退寸前のトヨタでF1を2戦走っただけだが、その時ザウバーは小林が磨けば光ることを認めたといえる。ただその後のレースは度々素晴らしいレースを見せはしたが、表彰台は今年の日本GPまでお預けだった。その間僚友セルジオ・ペレスが小林を出し抜いて表彰台に何度か上った。そのペレスは来季マクラーレン入りが決まり、また小林を出し抜いてトップチームへ旅立った。

 日本GPの小林の3位は素晴らしい成績で、これで小林の将来も安泰と思ったのは私だけではないはずだ。ところが、数日後、ザウバーは来季の小林残留は未定とコメントした。そこにドライバーが持ち込むスポンサーマネーをあてにするチームの台所事情が垣間見える。日本GPの成績をたたえながらも、スポンサーという後ろ盾を持たない小林への忠誠をザウバーが尽くすほどF1の世界は甘くないということだろう。また小林が飛び抜けて優れているという見解をザウバー経営陣は持っていないということかもしれない。

 マクラーレン、フェラーリ、レッドブルなら(メルセデスも?)、ドライバーに持ち込みスポンサーを期待せず、実力評価主義で決める。その選択眼は厳しくも正確なものでドライバーは常に好成績を挙げ、よほどのことがなければ放出されることはない。小林はペレスのように早い時期にトップチームに誘われるべきだったのだ。

 と、ここでなぜ小林はトップチームに誘われなかったか、という疑問が頭をもたげる。小林がまだ世界ブランドではなかったということだろう。日本人アスリートで世界ブランドはイチローをおいて他にない。サッカー選手も多く欧州で活躍するが、彼らの移籍には巨額のマネーがついて回ることは周知の事実だ。つまり日本人には金が必要ということだ。どんなに才能があっても。

 小林のマネジメントは彼が活躍するときにその価値を金に換えるべくスポンサーを探しておくべきだった。それはアスリートとして何ら恥ずかしいことではなく、スポーツの世界の不文律といえる。小林にはぜひ来季もF1を走ってもらいたい。それは日本のファンのためでも日本のF1のためでもなく、小林自身のためだからだ。(モータースポーツジャーナリスト)