(第643回)
 ホンダという名前がF1の世界ではまるで伝説のようになっていることに対し、誰ひとり疑問に思う者はいない。その理由はいくつかあるが、まず1960年代に日本の自動車メーカー(当時は2輪メーカー)として初めてF1に挑戦したことが挙げられる。それも複雑なエンジンを横置きにするなど2輪メーカーそのままでF1に出たような衝撃的な登場だった。2つ目の理由は1980年代の第2期といわれる挑戦でロータス、ウィリアムズ、マクラーレンといった名門チームと組み、数多くの勝利を挙げ、何度もコンストラクターズタイトルを獲得したこと。マンセル、セナ、ベルガー、プロスト、ピケ…といった当代一のドライバーに何一つ文句を言わせなかったエンジン性能は他社の追随を許さなかった。しかし、第3期の挑戦はいただけなかった。何を血迷ったかエンジンだけでなく車体まで手がけ、散々な成績しか残せないまま撤退した。

 それでもホンダのF1復帰待望論は盛り上がるばかり。それもここにきて急激に盛り上がりを見せたが、それは本田技術研究所の山本芳春社長が「ホンダはいつかまたF1に参戦することを願っている。すぐに復帰できるとは思わないが、機会が与えられれば復帰したい」とイギリスの雑誌の質問に答えたからだ。言葉尻をとらえればまるで他人ごとのようなコメントだが、個人の考えとしては今すぐにでも復帰したい、と考えているようにとらえられる。

 しかし現実はどうだろう。確かに14年からの新エンジンルールでは他社に対してハンディを負うことなく参戦できるというメリットがあるが、私に近い情報源によるとF1の前に世界耐久選手権(WEC)に出るのではないか、という話もある。すでにホンダの主任研究員らが国際自動車連盟(FIA)のWEC担当技術員と会っているとも聞いた。WECは現在アウディとトヨタが参加しているが、14年からはポルシェも参加表明しており、そこにホンダが加わるとにぎやかになる。ましてやWECはF1より自動車メーカーが参戦する理由を見つけやすいし、現在すでに米国のホンダ・パフォーマンス・ディベロップメント(HPD)はWECのプライベートチームにエンジンを供給している。

 そうしたことを考えると、ホンダが今すぐF1復帰とはいかないようだが、「近い将来」なら確実とみた。なぜならホンダの技術者が国際レース活動のない現状にジリジリしているのが分かるからだ。ツーリングカー世界選手権(WTCC)もいいが、そんなクラスで満足するホンダではないはず。一日も早いF1復帰を望むのは私のような外野でなく、実はホンダの技術者に違いない。(モータースポーツジャーナリスト)