(第644回)
 メルセデス・ベンツ日本の次期社長兼CEOに、上野金太郎副社長の昇格が決まった。2013年2月1日付。同社では初の日本人経営者ということになる。

 近年、外資系企業日本法人の経営者に日本人の起用が多い。自動車業界では海外メーカーのほとんどの日本法人が日本人経営者を置いている。例えばフォルクスワーゲン・グループ・ジャパンは庄司茂社長、フォード・ジャパンは森田俊生社長、ポルシェ・ジャパンは黒坂登志明社長、アウディ・ジャパンは大喜多寛社長…といった具合だ。その中でメルセデス・ベンツ日本はずっと本社出身の人間を社長に置いてきた。

 海外資本の企業が日本で事業を展開するとき、日本法人のトップは本社の人間がいいのか日本人がいいのかという議論はこれまで度々行われてきた。しかし、こと輸入車業界に関しては、日本人の方が適しているということだろう。これだけ日本人社長の名前が並ぶとそれを否定するのは難しい。理由の一つに日本の自動車市場の特殊性が挙げられるかもしれない。その特殊性とは、わが国には国産車と輸入車の間に壁があるということだ。国産車は誰でも手が出せるが、輸入車はそうではないという思い込みという壁。日本人経営者ならこの壁の存在を知るがゆえに、その壁を壊して初めて販売台数は伸びることを知りながらも、その壁の存在をマーケティングに使うことができるからだ。

 もちろん輸入車といっても高級車から大衆車まで幅広く、特に大衆車は日本車との市場争いでは旗色は悪い。それでも近年の輸入車販売台数の伸びは、購買層が壁の存在を意識しなくなりつつある証拠だろう。ブランドだけで選別されていた輸入車が、いまや国産車と同じ選択肢である価格、装備、インセンティブなどで日本の一般ユーザーに受け入れられ始めたということだ。それは、日本の一般ユーザーと同じ視点や評価軸でクルマを見ることができる日本人経営者の行ってきた変革が功を奏したということに他ならない。

 メルセデス・ベンツ日本の上野社長は、ここまで複雑でかつ成熟した市場で新しく出発する。その市場でこれまで日本人のトップがかじを取らなかったゆえに、メルセデス・ベンツが日本でできなかったことに、上野社長は挑戦することになる。

 健闘を祈ろう。(モータースポーツジャーナリスト)