(第647回)
 WEC(世界耐久選手権)がジワジワと存在感を高めている。国際自動車連盟(FIA)とフランス西部自動車クラブ(ACO)が手を組んで今年から始まった新生WEC。これまではル・マン中心だったレースが一気に世界中に広がった感じだ。

 これは新しいWECの内容が自動車メーカーにとってより魅力的なものだったからだろう。まずル・マン24時間レースという(恐らく)世界で最も有名で伝統があるレースが中心に置かれていることがポイント。レースをマーケティングツールと考える自動車メーカーにとって、ル・マンほどその効果の高いレースは他にない。世界中のメディアが取り上げ、特にアメリカで人気があるのがル・マンの強みだ。このレースで勝てば(トップクラスを走るだけでも)、宣伝効果は絶大である。

 WECの人気沸騰のもうひとつの理由に、新しい技術を受け入れる柔軟な姿勢がある。というか、そのように作られたレースだ。これはF1がドライバーのレースであるのに対し、WECは技術(自動車メーカー)のレースだという点。同じカテゴリーにガソリン、ディーゼル、(かつては)ロータリーなどのエンジンが混在し、ターボ、ハイブリッドなどの技術も受け入れられる。自動車メーカーは独自の技術を持って参戦できるというわけだ。

 自動車メーカーは世界景気の後退と共に、マーケティングだけのモータースポーツ活動を縮小する傾向にある。技術開発だけのモータースポーツ活動はすでに現実的ではなく(市販車技術の方がレースカーの技術より進化している点も多い)、よってその両方を満たしてくれる舞台でなければ自動車メーカーはモータースポーツへの参加を渋る傾向にある。こうした点を考慮に入れると、WECはまさに理想的な受け皿ということができるだろう。

 それが証拠に、今年のWECではLMP1クラスでアウディ、トヨタが覇を競い、2014年にはポルシェが参戦を決めている。そのポルシェは来年からGTEクラスへワークスチームを送り込むといい、マツダも来年からLMP2クラスに参加する。ホンダ参加のうわさもある。そう、WECは多くの参加者が身の丈にあったカテゴリーに参加できるようにクラス分けされているのだ。

 これまでル・マン24時間レースを守ってきたACOの努力と、自動車メーカーの参加を促してモータースポーツの隆盛を望むFIAの意向が今、ひとつになり、WECの存在感が高まりはじめた。この流れが止まらないように、自動車メーカーもレース主催者も前進を続けてほしい。(モータースポーツジャーナリスト)