(第648回)
 先日、スペインのバルセロナで若手ドライバーのテストが行われ、その中で日本人の笹原右京が素晴らしいタイムを出して注目されたという記事を目にした。一昔前には考えられなかったこと。といっても日本人が速いということが考えられなかったのではなく、16歳やそこらの若さで海外のテストに出掛けて速さを披露する環境が考えられなかった。

 これは日本に国力がついたということ、日本のモータースポーツを取り巻く環境が良くなった証しだ。もし1970年代の日本が現在と同じような環境に置かれていたとしたら、生沢徹、桑島正美以外にも速い日本人ドライバーの出現はあったはずだ。もちろんこれは無い物ねだりで、厳しい環境の中で単身ヨーロッパに渡りトップドライバーを向こうに回して速さを見せつけた彼らの存在価値を否定するものではない。彼らの活動はいまでも十分に称賛に値する。というより、彼らの活躍がなければ、小林可夢偉も笹原右京もいなかったに違いない。

 ところで今回のバルセロナテストを例にとっても、若いうちから海外を目指すドライバーが増えてきたが、よほど慎重にならなければ結果的に損をする。参戦するシリーズや所属チームの厳選がまず最初にやる仕事。そこを間違えると、あっという間に夢も現実も泡と消える。マネジメントをしてくれる人の重要性も認識した方がいい。低レベルなシリーズに参加させ優秀な成績を挙げて有頂天にするのが悪徳マネジメント。そんなところに引っかかると人生を棒に振ることになる。

 本当なら、日本のF3でも走ってから海外に出て行くのがいいと思う。若いうちから海外のレースに挑戦する方がF1に近いという思い込みがあるが、もしF1にたどり着けなければ悲劇だし、F1にたどり着くのは一握りのまた一握り。それにもいくつかの偶然とチャンスが交差してやっと実現する。可夢偉でさえトヨタの支援がなければ今のポジションは得られていない。

 またF1への道を諦めた若者を優しく受け入れてくれない日本レース界にも問題はあるだろう。しかし日本のレース界に三くだり半を突きつけて海外に出た若手にも責任はある。そもそも自分の生まれた国のモータースポーツを大切にしないまま世界に出ても、結局は根無し草で死に場所さえ見つけられなくなる。

 自分は日本人で人間としてのルーツもレース人生のルーツも日本にあるという確固たる考えを持って海外へ挑戦してほしい。これまでの世界王者で、自分の生まれた国を大切にしなかった人を私は知らない。(モータースポーツジャーナリスト)