来週いよいよラストラップ突入
第338回
2020年7月に開催されたスペインGPとアンダルシアGPをしっかり見守っていた故若井伸之さんのモニュメント。フラミンゴは故若井伸之さんのトレードマークだった。
2020年7月に開催されたスペインGPとアンダルシアGPをしっかり見守っていた故若井伸之さんのモニュメント。フラミンゴは故若井伸之さんのトレードマークだった。
 週刊朝日と週刊文春の発売日を毎週、心待ちにしている。このふたつの週刊誌には椎名誠さんのコラムがあって、それを読むのを楽しみにしている。世界中、どこにいても、日本から来る友人には、このふたつの雑誌を買ってきてもらう。

 週刊文春の先週号に掲載された椎名さんの「新宿赤マント」には、小説原稿に追われている椎名さんが“我ながらよくこんな綱わたりのような締切りサーカスの日々を過ごしているものだ”というフレーズがあって、笑えた。僕の書いているGPサーカスに語呂(ごろ)が似ている。シーズン中、日本とヨーロッパの時差の中でいつも締め切りに追われている自分の姿が思い浮かんだ。「締切りサーカス」という名のタイトルもいいなあと思ったのだった。

 文春の椎名さんの新宿赤マントは、今週号で333回目を迎える。僕のGPサーカスは今回で348回目。日本中、いつもあっちこっちと飛び回っている椎名さんと、シーズン中、いつもどこかの国でこのコラムを書き続けてきた自分の姿が重なる。書いていることも、量もケタ違いで比べること自体、失礼だとは思うが、締切りサーカスという点では似ているような気がした。とにかく、このコラムを読むためにふたつの週刊誌を買ってきたと言っても過言ではなかったのだ。

 それでは、この“GPサーカス”を読むためにトーチュウを買ってくれる人はいるのだろうか。先日、思いがけない所で「いつも読んでますよ」と言われてうれしかった。11月下旬、都内で故若井伸之選手の母の個展が開かれた。若井義子さんは自宅で子供たちに絵を教えるかたわら、長い間、作品を描き続けてきた。

 今回、初めて開かれたという個展のテーマは“和”。93年のスペインGPで事故死した子息をイメージした絵も展示されていた。その個展へ出かけて行った時に、会場で会った故人の友人氏に「いつだったか、ツツジの話を書いていましたよね。あの話がすごく印象的で、若井さんの家まで出かけて、そのツツジを見せてもらったんですよ」と言われた。

 ツツジの話は、何年か前にこのコラムで書いたもので、故人が、ヨーロッパに向けて出発する朝、自宅の庭に咲いているツツジを見て「母さん、きれいだね」と言ったという話だった。

 何も書けなくて、一日中、もんもんとしたこともある。あっという間に書き上げたこともあるが、「GPサーカス」も来週はいよいよラストラップに突入する。339周もするレースはル・マン24時間ぐらいのもの。ライダーやドライバーが「L1」のサインボードを見た時の気分というのは、きっと、こんな感じなのかもしれないなあとフト思ったのだった。

■1996年12月18日掲載