92年Round 4 スペインGP編
(92年5月9日掲載)
スペインGPはマンセルの強さとシューマッハーの成長が光った(C)Chunichi
スペインGPはマンセルの強さとシューマッハーの成長が光った(C)Chunichi
◆ Round 4 スペインGP
◆92年5月1〜3日 サーキット・デ・カタロニア(カタロニア・サーキット)
 ▽PP N・マンセル(ウィリアムズ・ルノー)
 ▽優勝 N・マンセル

「戦意喪失のセナよ、何でも起こるF1を忘れるな」

【編注=前年、最終戦を待たずにフェラーリから屈辱の“解雇”の仕打ちを受けたアラン・プロストは、92年を休養・充電の年と決めた。フランスTF1テレビ解説者としてサーキットに現れたのは第4戦スペインGPからだった。そしてプロストはグランプリ・ウオッチをトーチュウに「プロフェッサーとグランプリを観よう」のタイトルで寄稿することになった】

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 昨年の日本GP以来6カ月を経て、僕はグランプリの舞台に戻ってきた。読者のみなさんも覚えていると思うが、僕がスクーデリア・フェラーリによって解雇されたのは、正確には日本GPの翌日のことだった。あの当時、僕は深い悲しみに包まれていた。グランプリは、僕にとって2番目の家族のようなものだったのだ。12年の間、僕はグランプリの中で生きてきた。その世界から突然僕を遠ざけたフェラーリを、僕は恨んでいた。

 いまでは状況は変わって、僕とフェラーリ側の双方の弁護士たちが、僕たちの間の問題を引き受けている。スイスの法律に従って調停委員会を通さなければならないものの(これは、フランスの裁判権管轄の裁判に一致するものだ)、僕はフェラーリとの関係を回復した。特に、マラネロの新しいボス、ルッカ・ディ・モンテゼモロのことは、とてもよく知っている。バルセロナで会った僕たちは、長時間、すべてについて、将来についても話し合った。

 僕がサーキットに足を運んだのは、TF1の仕事のためだった。TF1はフランスの1チャンネルで、ヨーロッパ最大のテレビ局でもある。そして今回、F1の放送権を取り戻したのだ。テレビという、今までと違う角度からグランプリを見るのは、僕にとってまったく新しいことだった。いくつもの番組の基本やビデオテープの編集など、プロとしてデビューする前に大急ぎで学ばなければならないことは、たくさんあった。

 でも、もちろんパドックを散歩することもできた。数分後に予選やレースを控えている時とは違って、これはとても楽しいものだ。昨年までいつも顔を合わせていた数少ない友人−−ジャン・アレジ、僕のエンジニアだったルイジ・マッツォーラ、フェラーリやマクラーレンのメカニック、ベルナール・デュド、フランク・ウィリアムズ、ロン・デニスとその奥さんなど−−僕が大好きだった人たちに会うことができたのだ。

 さて、そのスペインGP、雨の中の2回目の予選を、僕はTF1の中継車の中、壁のように積み重なった多くの映像の前で見つめた。TF1のエンジンニアたちは、僕がそこにいるのでとても恥ずかしそうにしていた。でも、彼らは僕の方も同じようにおどおどしていることを、忘れていたようだ。バルセロナには土曜日の朝に到着したが、初仕事の後、僕は同じ日の夜にはサーキットを後にした。翌日のレースは、スイスの自宅で見守った。レース中、僕の家とTF1の間には、音声回線がつながれていた。

 レースを見ていて、驚いたことがいくつかあった。まずジャン・アレジのスタートだ。去年、同じスペインGPで、彼は何のミスも犯さなかったのに、危険なスタートをしたとして10秒のペナルティーを受けたことを、僕は思い出した。今年は逆に、彼のスタートは重大な結果を招きかねないものだった。でも審査委員会が何も言わなかったことを、僕は疑問に思う。僕の分析は次のようなものだ。あのスタートの時点で、フェラーリはよほどのことが起こらないかぎり、優勝争いはできないものと考えられていた。だから、彼らはアレジに好きなようにさせておいたのだ。もし、アレジがたとえばウィリアムズに対抗できる優勝候補に数えられていたら、彼にはペナルティーが科せられたと、僕は賭けてもいい。

 マンセルは本当に見事なレースを見せた。彼は、レースの状況を完ぺきにコントロールした。レース中、TF1の取材にベルナール・デュドはこう断言していた。「エンジンもギアボックスにも、まったく問題はない」それでも、僕はナイジェルが何らかの問題を抱えていると信じていたのだ。ところがそうではなかった。彼は、本当に自分の役割をきっちりと果たしたのだ。大切なのはまず、周回遅れのマシンを抜くのに絶対にリスクを冒さないこと、そして特に、コースが少し乾いていた序盤の数周で、タイヤを傷めないように大切に走ることだった。

 ウィリアムズ・ルノーに少しずつ近づいてきているものの、マクラーレン・ホンダは期待外れだったと僕は思う。バルセロナのように雨が降った時には、エアロダイナミクスやエンジン・パワーの重要性はとても小さくなるのだ。ある段階から、パワーはもう路面に伝わらなくなり、他を上回る馬力(僕はルノーV10のことを話しているのだが)は、もう何の役にも立たなくなる。だから、マクラーレンの2台は脇役以上のレースを見せてくれると期待していたのだ。でも、そうはならなかった。結果はまったく逆だった。

 マンセルはどんどん差を広げた。セナは黙ってそれを見ていたわけではなかったが、それでも、レース後のコメントに僕は驚いた。彼はまるでもう戦う意欲を失ったような、何も興味がないような表情をしていたのだ。もう、今年のチャンピオンはあきらめたかのように……。フォーミュラ1ではどんなことが起こっても不思議はない。彼は、これを忘れてはならないと思う。

 他のドライバーについては、シューマッハーとアレジが実に彼ららしいレースをしたと思う。彼らは、本当に印象深い走りをしてくれた。シューマッハーはベネトンの新しいマシンが有望であることを証明した。そしてアレジは、彼の攻撃的な走りで十分僕を楽しませてくれた。ブラボー、ジャン!!!(訳・今宮雅子)

(次回はサンマリノGP編です)