“コカ・コーラ”鈴鹿8耐特別編(6)
アジアのレベルアップに取り組む玉田誠(竹内英士撮影)
アジアのレベルアップに取り組む玉田誠(竹内英士撮影)
 今年の“コカ・コーラ”鈴鹿8耐第40回記念大会(鈴鹿8耐)のエントリーリストにも「Honda Team Asia」の名前があります。このチーム「Honda Team Asia」をまとめているのが玉田誠です。玉田は、数少ない日本人のモトGP優勝者のひとり。2004年リオGPや日本GPでの劇的な勝利で、レースファンの心を鷲掴みにしたライダーです。今も多くのファンを持つレース界の宝です。

 玉田とアジアのつながりは2012年から。この年、アジアロードレース選手権(ARRC)のホンダアジアドリームカップ(ADC)のプロフェッショナルトレーナーとしてアジアを転戦します。鈴鹿8耐には「Honda Team Asia」からライダーとして参戦しています。

 翌13年は、前年ARRCでスーパースポーツ600チャンピオンとなった清成龍一の後を継ぐライダーとして、MuSASHi Boon Siew Honda Racingから参戦します。第3戦インドでダブルウィンを飾り、その力を示します。この年も「Honda Team Asia」から鈴鹿8耐参戦しますが、予選でケガを負ってしまいます。そのケガの影響で、ARRC後半戦を欠場してタイトルには届きませんでしたが、レースのレベルを確実に引き上げました。

 2014年もARRC参戦を続けながら、鈴鹿8耐では「Honda Team Asia」の監督を任されます。玉田はADCでその才能を認めていたジョシュ・フック(オーストラリア)を呼び寄せ、ARRCのチームメイトであるザムリ・ババ(マレーシア)とディマス・エッキー・プラタマ(インドネシア)を起用し、鈴鹿8耐7位フィニッシュを飾るのです。ライダーとしては、この年のARRC第3戦オートポリスで優勝するなど活躍しますが、ランキング6位でシーズンを終えます。

 そして、玉田は2015年から育成へと本格的にシフトして行きます。ARRCでも「APHonda」の専任コーチとしての転戦するようになるのです。さらにメカニックの育成として全日本ロードレース選手権を戦うモリワキにアジア人メカニックを派遣し、彼らと行動を共にしています。

 「2012年にあの清成が苦労している戦いを見ていました。実際に自分が参戦して、アジアのレベルの高さを実感しました。でも、力のあるライダーがいるのに、それがうまく引き出されていないと感じたんです。このアジアが持っている未知数の可能性は、ものすごい魅力だと感じました。鈴鹿8耐で監督をさせてもらい、どうしたら育てることが出来るのだろうって真剣に考えるようになりました。そして、8耐前の1ヶ月くらいは鈴鹿にライダーと住み込んでトレーニング合宿をするのが恒例となりました。昨年からはモリワキさんの協力を得て、メカニックの育成にも取り組んでいます。モリワキさんの指導のおかげでメカニックのレベルも確実に上がっています。大事なのはライダーを走らせる環境です。そこがしっかりと整ったら、本当の意味で世界に通用するライダーが生まれると思う」
MuSASHi Boon Siew Honda Racingザクワン・ザイディの走り(竹内英士撮影)
MuSASHi Boon Siew Honda Racingザクワン・ザイディの走り(竹内英士撮影)
 2015年鈴鹿8耐はディマスに加え、アズラン・シャー・カマルザマン(マレーシア)とラタポン・ウィライロー(タイ)とオールアジアで挑みます。決勝レースで、5番手浮上なるかと思われたとき、最後のピットインでトラブルが見つかり、修復に時間を奪われて18位となりました。そのリベンジに賭けた2016年はディマスとラタポンにザクワン・ザイディ(マレーシア)で挑み8位。これはHondaチームの最上位となります。

 ワークス系チームが数多く参戦、世界のトップライダーが集まる鈴鹿8耐で確実にトップ10フィニッシュを続けていることは、ライダーもチームも力がなければ出来ないことです。それでも玉田は「まだまだ」と納得はしていません。そして今季は、さらなるチャレンジをしようとしていました。
APHondaラタポン・ウィライローの走り(竹内英士撮影)
APHondaラタポン・ウィライローの走り(竹内英士撮影)
 「これまでは、日本のチームにお世話になる部分も大きかったのですが、今年はアジアのチーム監督にも参加してもらって、チーム運営を含めて関わってもらおうと思っています。まだ力不足ですが、アジアのチームが自分の力でレースが出来るようにと思っています。Hondaさんのおかげで、自分は全日本、モトGP、ワールドスーパーバイクとトップチームで走らせてもらいました。そのプロのやり方をアジアに教えないともったいないと思っています。それは僕だけじゃなくて、Hondaで走らせてもらったライダー全員の使命だと思う。次の世代に技術もレースへの思いもしっかり伝承したい。本田宗一郎さんの情熱は、僕がお世話になったチーム高武の監督やHondaの監督たちに引き継がれていました。その思いを確実に伝えながら、いつか、このチームアジアで、本当の意味で世界に挑戦したいと考えています」

 まだ今年の鈴鹿8耐ラインナップは発表されていないのですが、ディマス、ラタポン、ザクワンと昨年のライダーたちが鈴鹿8耐の有力参戦候補。ライダー、メカニック、そして監督に、玉田は自立の道を示そうとしています。それは世界への挑戦の大きな一歩、玉田はアジアで大きな夢と目標を見つけたのだと思います。そして、玉田の志の高さは、確実にチームを強くしている気がします。玉田がいるから「Honda Team Asia」は進化しているのです。今も玉田の優しい笑顔につられて「玉ちゃん」と呼んでしまいますが、次に会う時は「玉田さん」と呼ばなければと思うのです。