“コカ・コーラ”鈴鹿8耐特別編(10)
1978年、第1回鈴鹿8耐で優勝を果たしたヨシムラ(ヨシムラ提供)
1978年、第1回鈴鹿8耐で優勝を果たしたヨシムラ(ヨシムラ提供)
 「2016−2017 FIM世界耐久選手権最終戦 “コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース 第40回記念大会」(7月30日決勝)に参戦するヨシムラのラインナップが発表されました。エースライダーの津田拓也、ヨシムラでは2度の表彰台を経験しているジョシュ・ブルックス、そして最後のひとりはシルバン・ギントーリです。この3人で、ヨシムラ5度目の鈴鹿8耐優勝を目指します。

 ヨシムラの鈴鹿8耐優勝といえば、どのレースも劇的で心に残るものですが、やはり第一回鈴鹿8耐、1978年の勝利を忘れることはできないでしょう。この年は、欧州で無敵艦隊と呼ばれたホンダRCBが日本のレースを走ることで注目を集めた大会で、スズキGSをチューニングした町工場のヨシムラ(ウェス・クーリー/マイク・ボールドウィン)が打ち破って勝利します。このヨシムラの勝利がなかったら、鈴鹿8耐の歴史は、違ったものになっていたかも知れません。「財力に勝るワークスを倒すなんて無謀な挑戦だ」と、諦めることなく、立ち向かい、僅かなチャンスに食らいつき、勝利を掴むという夢を実現したのです。ヨシムラは、夢に向かって挑戦し続ける人々の心を惹きつけ、鈴鹿8耐の魅力の核を築いたのだと思います。

 ヨシムラジャパン創業者の故吉村秀雄氏とその長男不二雄氏、そしてヨシムラスタッフが不眠不休でマシンを仕上げるという戦いの日々を、当時メカニックだった浅川邦夫氏(現・浅川スピードオーナー)は「パーツを削ったり、作ったりを繰り返して、レース間に合わないぜ、と思うことも度々だったが、親父さん(秀雄氏)がやれと言ったら、寝ないのなんて当たり前。納得するまでとことんやるのがヨシムラ」だと言います。不二雄氏は「親父と喧嘩をしながら戦って、まったくノーマークの自分たちが勝ち、家族のみんなとスタッフで泣きながら見上げた花火は忘れられない。嬉しいとか、そんな簡単な言葉では言い表せない気持ちだった」と語ります。
現ヨシムラエースライダーの津田拓也(ヨシムラ提供)
現ヨシムラエースライダーの津田拓也(ヨシムラ提供)
 第一回から鈴鹿8耐に参戦を続けているヨシムラの不二雄氏は「この戦いのためにヨシムラは存在している」と言い切ります。全日本ロードレース選手権での戦いも、この鈴鹿8耐のために必要だからなのです。だから、2013年に大抜擢されヨシムラ入りを果たした津田拓也は、鈴鹿8耐初参戦前日、「このまま夜が明けなければいいのに」と重圧で眠れない夜を過ごしたと言います。今季ヨシムラに迎えられた浜原颯道も「まだ、ヨシムラで鈴鹿8耐に挑戦させて下さいとは言えない」と語ったと聞きました。ヨシムラから鈴鹿8耐に参戦したことのある加賀山就臣は「伝説のヨシムラで、俺が走っていいの?と思った」と言っていました。ライダーたちへ「鈴鹿8耐で憧れのマシンは?」と聞くと、ヨシムラを挙げるライダーが多くいます。
2014年スーパーバイク世界選手権王者・シルバン・ギントーリ(ヨシムラ提供)
2014年スーパーバイク世界選手権王者・シルバン・ギントーリ(ヨシムラ提供)
 晩年の秀雄氏にお会いする機会があり、私が「レースがあると聞くと、ちょっと落ち着かなくなります」と言うと、「そりゃレース中毒だな。レースには麻薬のような魅力がある」と笑っていました。チューニングの神様と呼ばれ、ゴッドハンドと謳われながら、ポップ(親父)と愛された秀雄氏。このとき、その神様の火傷の跡が残る手を強く見つめてしまいました。その熱情のような血は、創業者の秀雄氏から不二雄氏に引き継がれ、現在監督の加藤陽平氏に受け継がれています。陽平氏は秀雄氏の次女由美子さんとヨシムラライダーだった加藤昇平氏の息子です。昇平氏はテスト走行中の事故で亡くなられ、由美子さんも亡くなられています。由美子さんは、秀雄氏に一番面立ちが似ていたように思います。いつも背筋がピンと伸びたキリっとした立ち姿で、レースを見守っていた姿が思い出されます。

 当時秀雄氏と働いていたスタッフは、今でも鈴鹿8耐を訪れ、何かあれば協力を惜しみません。秀雄氏の妻・直江さんは、今もご自身で電車を乗り継ぎ、鈴鹿サーキットに来られて、孫子の活躍を見守っています。
ヨシムラで2度の表彰台を獲得しているジョシュ・ブルックス。写真は2016年当時(ヨシムラ提供)
ヨシムラで2度の表彰台を獲得しているジョシュ・ブルックス。写真は2016年当時(ヨシムラ提供)
 全日本ロードでは、待ちに待ったスズキの新型GSX‐Rが登場。今はまだ調整に苦心しているようではありますが、ヨシムラが手をこまねいている訳はないですし、津田の力も進化しています。2013、14年と連続2位、昨年は3位となっていますが「表彰台では誰も喜んでくれない」と狙うは優勝しかありません。

 ブロックスはヨシムラ優勝を信じ、懇願しての鈴鹿8耐参戦です。ギントーリは2014年のワールドスーパーバイク(WSB)チャンピオンで、今もモトGPのスズキの代役ライダーを務める実力者。鈴鹿8耐参戦は初挑戦ですが、世界の走りを披露してくれるはずです。さらに、モチュールが1986年以来の公式パートナーとなり、全日本ロードと鈴鹿8耐をサポート。ヨシムラファンにとっては懐かしいカラーリングが復活しています。

 今年は鈴鹿8耐40周年を記念して、第一回優勝ライダーであるクーリーがゲスト来場します。ヨシムラの新たな歴史を刻む戦いが鈴鹿8耐で繰り広げられようとしています。
 ○もうひとつ、ヨシムラファンへお知らせです。
 ヨシムラツーリングブレイクタイム Vol.53「鈴鹿8耐直前スペシャル」が開催されます。
 ・開催日:7月8日(土)9:00〜14:00
 ・開催場所:ネオパーサ清水 ふらっとパーク内特設会場
 ・参加料:無料
 ・鈴鹿8耐参戦ライダートークショーや8耐グッズ先行販売など企画中です。お気軽に参加ください(ブルックス選手は不在です。)