“コカ・コーラ”鈴鹿8耐特別編(11)
全日本ロードレースST600で活躍を見せている前田恵助(赤松孝撮影)
全日本ロードレースST600で活躍を見せている前田恵助(赤松孝撮影)
 2016−2017 FIM世界耐久選手権最終戦 “コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース 第40回記念大会(7月30日決勝)に「ITO ・ RACING ・ GMD & REDGRIFFIN」が参戦します。母体は全日本ロードレース選手権に参戦する「伊藤レーシング」。監督は伊藤巧氏。元スズキワークスライダーで、1987年WGP日本GPの最高峰500クラスにワイルドカードで参戦、3位表彰台を獲得した実力者です。

 チームは過去に鈴鹿8耐に参戦した経験はありますが、今回は新チームのため、8耐トライアウトで参戦権を獲得せねばなりません。ライダー大崎誠之は、5月に行われた鈴鹿サンデーレースの鈴鹿8耐トライアウトに参戦、清成龍一、高橋裕紀に次いで3位となり参戦権を獲得しました。

 大崎にとっては7回目の鈴鹿8耐。一緒に参戦するのは、教え子であり、全日本ロードST600参戦中の前田恵助、初参戦です。もう一人は調整中とのことです。参戦クラスはストッククラスとより市販車に近いバイクのため、総合上位は難しいとは思いますが、クラス優勝を目指します。
「ITO ・ RACING ・ GMD & REDGRIFFIN」左から前田恵助、伊藤巧監督、大崎誠之(赤松孝撮影)
「ITO ・ RACING ・ GMD & REDGRIFFIN」左から前田恵助、伊藤巧監督、大崎誠之(赤松孝撮影)
 大崎は、時代の巡り合わせが良ければ、ヤマハワークス入りしてもおかしくないほどの逸材。全日本ロードでは何度もタイトル争いに加わってきた、無冠のトップライダーです。あの全日本王者の中須賀克行とも同チームで戦ったことがあり、先輩として彼を助け、支えていました。2015年には全日本ST600にスポット参戦。走り出せば、その速さを披露し、勝利を飾りました。職人のように確実な速さを示す、玄人受けする実力者です。今も現役時代以上のトレーニングを課し、自身を鍛え上げています。

 その大崎が、2016年は伊藤レーシングから全日本ロードST600に参戦する前田恵助のコーチとして、彼を本格的に指導するようになりました。前田はミニバイク時代から関係者の目に留まってきた逸材で、全日本ロード昇格2年目にはST600ランキング5位と上位の結果を残すようになります。
全日本ロードレースST600クラス前田恵助の走り(赤松孝撮影)
全日本ロードレースST600クラス前田恵助の走り(赤松孝撮影)
 2016年は、大崎を含め、前年15年のST600チャンピオン横江竜司もレースに参戦しておらず、世代交代のシーズンでした。前田は開幕戦筑波で2位に入り初表彰台を獲得、喜びでいっぱいでしたが、伊藤監督には「横江や大崎がいたら、表彰台にも上がれてない。何を浮かれているんだ」と叱責されます。前田は「あぁ〜、その通りだなと思いました。大崎さんが残したレコードを敗れていない。まずはそれを更新すること。常に大崎さんが前にいると思って、現状に満足しないこと」と肝に銘じます。

 その年、前田は躍進。ランキングトップとなり最終戦を迎えます。そして、予選では大崎のタイムを破りレコードを更新、意気揚々とタイトル獲得に飛び出すのですが、トップに浮上しようしたオープニングラップで転倒、初優勝もタイトルもフイにしてしまうのです。ピットでは、唖然とする伊藤監督と大崎がいました。
伊藤レーシング、前田(右)と伊藤監督
伊藤レーシング、前田(右)と伊藤監督
 後になって、チャンピオンになっていたらヤマハ育成チームに招かれていたかもしれないと知りました。ただ、前田は「まだその資格がないということ。みんなが納得してくれるライダーになりたい。今年はちゃんとチャンピオンになる」と決意。オフには大崎の「鬼のトレーニング」に参加、10kgも体重を落として精悍になり、2017年を迎えます。

 前田は雨となったシーズン開幕戦筑波、第2戦SUGOと連続2位。そして、ついに勝利の時を迎えるのです。

 第4戦ツインリンクもてぎ予選、見事にポールポジションを獲得しますが「何度も転倒する夢で目が覚める」と精神的には追い詰められているようでした。ですが、レース本番、前田は圧倒的勝利を飾ります。力があるのに勝てないもどかしさを抱えてきた中での待望の勝利に、だれもが「やっと勝てたね」と声をかけました。歓喜の前田の表情に、誰もが、心のつかえがとれたような爽快な気分を味わいました。
全日本ロードレースST600クラスに参戦する前田恵助(赤松孝撮影)
全日本ロードレースST600クラスに参戦する前田恵助(赤松孝撮影)
 その師弟コンビ、大崎と前田で挑む鈴鹿8耐。大崎は「最初の頃の印象は、どうやったら速く走れるんですかね〜って。なんだこいつはって感じでしたよ。でも、素直なんです。性格も走りも、アドバイスするとそれをすぐに真似できる。実践できるのは才能。アクセル開けて来いって言ったら、2秒詰めて帰ってきた」と、今では愛弟子の成長に目を細めています。

 鈴鹿8耐参戦は大崎の夢でもありました。前田もいつかは出たいと願っていた憧れのレース。その二人の願いを、伊藤監督が叶えてくれました。今の若いライダーは恵まれています。偉大な監督と先輩の元ですくすく成長して、彼らを超えてほしい。鈴鹿8耐は、その最初の舞台となりそうです。