秘密兵器・浜原起用で勝負
“コカ・コーラ”鈴鹿8耐特別編(17)
現在、世界耐久選手権ランキングトップのSERT、“コカ・コーラ”鈴鹿8耐で優勝を決める(EWC提供)
現在、世界耐久選手権ランキングトップのSERT、“コカ・コーラ”鈴鹿8耐で優勝を決める(EWC提供)
 今年、“コカ・コーラ”鈴鹿8耐第40回記念大会(7月30決勝)は、世界耐久選手権(EWC)の最終戦として開催されます。2016年9月に開幕戦・ボルドール24時間耐久が行われ、第2戦ルマン24時間耐久、第3戦オーシャスレーベン8時間耐久、第4戦ソロバキア8時間耐久と戦い、最終戦鈴鹿8時間耐久を迎えるわけです。

 現在、ランキングトップはスズキエンデュランスレーシングチーム(SERT)で、1ポイント差でGMT94ヤマハ、トップから27ポイント差のYARTヤマハで、タイトル争いはSERTとGMT94に絞られています。この2チームは昨年もタイトル争いを繰り広げて、GMT94が1ポイント差で涙をのみラインキング2位、SERTが15回目のタイトルを獲得したのです。今季のGMT94は絶好調で、3連勝と破竹の勢いで、SERTとの因縁の対決を鈴鹿で繰り広げようとしています。
SERTの名物監督ドミニク・メリアンさん。表彰台の真ん中でトロフィーを掲げるときの歓声はすごいです(EWC提供)
SERTの名物監督ドミニク・メリアンさん。表彰台の真ん中でトロフィーを掲げるときの歓声はすごいです(EWC提供)
 このSERTにはドミニク・メリアン監督という名物監督がいて、もう70歳を超えてもいますが、変わらずにレース中は休みなく陣頭指揮を執り、チームをまとめています。EWCで一番有名で人気のある監督です。表彰台の真ん中で、彼がトロフィーを掲げた時の歓声が一番大きく、それはスター級のインパクトです。ドミニク監督に「あなたがEWCで1番に人気がありますね」と聞いたら「もう30年以上もEWCで頑張っているんだからね。それくらいいいだろう」と笑っていました。ボンキュンボンのセクシーなキャンペーンガールの肩に手をまわして、記念写真に納まる姿がさまになっていて、男の憧れだわ、といつも思っていたのです。

 彼の元で2度の世界チャンピオンに輝いた北川圭一は「まさに鬼軍曹、情けない走りをしたら、口も聞いてくれない。無視されるんだから、たまらない。連続走行も、無理と思っても行けと言われたら行かないわけにはいかなかった。それでも、皆からシェフと呼ばれて尊敬されていた。ドミニクがビシっとまとめているチームの結束は固く、強く、頼もしかった」と言います。
SERT第3ライダーに起用された浜原颯道(鈴鹿サーキット提供)
SERT第3ライダーに起用された浜原颯道(鈴鹿サーキット提供)
 開幕戦ボルドール24時間耐久ではSERTが見事優勝を飾り、ドミニク監督が、いつものように表彰台の真ん中で歓声を集めていたのですが、そのドミニク監督が、第2戦ルマン24時間には姿が見えませんでした。この直前のテストでアンソニー・デラール選手が亡くなり、そのショックもあり心臓の手術を受けて入院中とのことでした。ルマンでは、アアンソニー選手の追悼セレモニーが行われ、全チーム、ライダー、オフィシャル、観客が参列しました。アンソニーもドミニク監督もいないSERTは、寂しげに見えましたが、戦い続け、現在ランキングトップを守り、16度目の世界タイトル獲得を誓っています。

 監督代理のドミニク・エバンは「手術後は体重も落ちてとても心配したけど、今は回復してきているし、復帰に向けて頑張っているよ。まだ飛行機に乗れないから鈴鹿には来られないけど、しっかり戦ってタイトルを持ち帰りたいと思っている」と語りました。
浜原颯道の走り(赤松孝撮影)
浜原颯道の走り(赤松孝撮影)
 浜原颯道が第3ライダーとして起用されるという発表も、驚きではありましたが、タイトル獲得の秘策のようです。SERTは、アンソニーの代役として起用したライダーのパフォーマンスが上がらず、チームとしては悩んでいて、最終戦は鈴鹿を知り尽くしたライダーがどうしても必要となり、浜原が浮上したのです。

 浜原起用の噂は海を越えて欧州に渡り、秘密兵器として伝わり、ライバルGMT94も日本人を起用するという話も飛び出して、盛り上がっていたようです。結局、GMT94は既存のメンバーのままで戦い、SERTは浜原を起用しました。浜原は、全日本ロードレースに昇格したばかりで「俺をすごいライダーだと勘違いしている」と戸惑ってもいましたが、参戦を承諾しました。浜原に「勇気があるね。世界チャンピオンがかかる戦いだよ。1ポント差だよ。私なら、怖くて断るかも」と言うと、「でもいい機会だと思うし、8耐は参戦したかった」と答えました。

 浜原は「EWCは、最近、航汰(野左根)が走り始めたから気になるようになったけど、それまではあまり知らなかった。SERTのことも、最近知ったんだ」と言い、知らないって強い、と思いました。「プレッシャーは?」と聞くと「ない」ときっぱり。190cm、85kg、全日本ロードの経験が無いのにヨシムラ入りと、全てにおいて規格外の浜原は、常人が感じるプレッシャーなど感じないのです。もちろん、8耐事前テストでSERTに合流、合格点をもらったからこその参戦です。すっかり、チームの戦力として走行する姿は頼もしいものでした。
 SERTとGMT94は鈴鹿8耐の決戦で、前でゴールした方が世界チャンピオン獲得となります。浜原は、いきなりEWCの中心人物となり世界の注目を一身に浴びることになります。フランスの地で、吉報を待つドミニク監督に嬉しい知らせを届けることが出来るのか注目です。