“コカ・コーラ”鈴鹿8耐特別編(18)
オーディションでホンダドリームレーシングから鈴鹿8耐への参戦を勝ち取った岩戸亮介(竹内英士撮影)
オーディションでホンダドリームレーシングから鈴鹿8耐への参戦を勝ち取った岩戸亮介(竹内英士撮影)
 鈴鹿8耐はユーロスポーツがライブ中継するようになり、今では世界的なモータースポーツイベントに成長しています。今年は世界耐久選手権(EWC)の最終戦ということもあって、さらに大きな注目が集まりそう。日本では、鈴鹿8耐は真夏の祭典と呼ばれるようになり、国内一のバイクイベントとして知られていますが、海外では、世界を席巻する4メーカーのお膝元でのレースということで、世界中のライダーたちにとってチャンスを掴むための重要なレースとして、歴史を紡いできました。

 フレディ―・スペンサー、ワイン・ガードナー、ミック・ドゥーハン、エディー・ローソン、ケビン・シュワンツと、ロードレース世界選手権(WGP)チャンピオンに輝いたライダーたちを筆頭に、数多くのライダーたちが、無名時代に8耐に挑み、その後のレース人生を切り開いていきました。

 海外ライダーだけでなく、日本人ライダーも同じ。岡田忠之は、ここで大排気量も操れることを示して500クラスへとステップアップ。「ニトロノリ」こと芳賀紀行も、世界の扉を開きました。

 また、少し前までは、ふたりがレギュラーライダーで、その2人に何かあれば走行できる第3ライダー枠がありました。ここで玉田誠や中須賀克行は、レギュラーライダーに迫るか、超えるようなタイムを叩きだし、その力を示しました。8耐はライダーたちにとって己を試す舞台でもあるのです。
経験豊富なエースライダー、山口辰也(竹内英士撮影)
経験豊富なエースライダー、山口辰也(竹内英士撮影)
 ですが、8耐を走るチャンスを掴むのはなかなか難しい。そんなライダーに救いの手を差し伸べたのは、ホンダドリームレーシングです。エースライダーの山口辰也は「福間勇二監督が若いライダーにも機会を与えたいと考えたのがきっかけ」で、オーディションで8耐ライダーを決めることになったそうです。

 こんな試みが増えてくれたら、ダイアモンドの原石を探すことが出来るかも知れない。このホンダドリームレーシングのオーディションは、小さな第一歩かも知れないけれど、とても大事なことだと思い、見守っていました。
職人的なライディングスキルを持つ小山知良(竹内英士撮影)
職人的なライディングスキルを持つ小山知良(竹内英士撮影)
 オーディションの結果、ライダーは、山口辰也、小山知良、岩戸亮介の3人に決まりました。岩戸は全日本ロードレース選手権JGP2に今年ステップアップしたばかりのライダー。全日本ロードでは「チーム高武」所属で、あの宇川徹、柳川明、加藤大治郎、玉田誠、清成龍一と、きら星のように輝く先輩たちがいます。

 チーム高武の監督は、彼らをそばで支えていた柳本眞吾氏。監督業以外にもメカニックなど何役もの仕事をこなし、岩戸とチームメイトの作本輝介を支えています。宇川も玉田、清成らチーム高武出身ライダーは、今でも柳本のピットへ出向いて挨拶は欠かしておらず、チームの強い絆を感じます。

 そんなチーム高武で厳しく育てられている岩戸ですが、今回初めての8耐バイクに大興奮。はやる気持ちを抑えながら8耐レース本番を迎えます。

 岩戸は「チームの先輩でもある宇川徹さんがセブンスターホンダで優勝したレースを何度も見ていました。カッコ良かったです。いつか出たい、走りたいと思っていました。チャンスを頂けたことに感謝しています。選んでもらえて、嬉しかったです。初めて乗ったバイクの加速にはビックリしました。でも、すごい乗りやすく扱いやすいと感じました。まだまだタイムアップできていませんが、自分での役割をしっかり考えてアベレージを上げて行きたい」と言います。
ホンダドリームレーシング集合写真(竹内英士撮影)
ホンダドリームレーシング集合写真(竹内英士撮影)
 全日本ロードレース選手権はレース数が少なく、ライダーたちの走行量は物足りないものです。経験を積みたいライダーたちにとって、8耐はテストを含めると走行時間が長く、それだけでライダーのスキルアップにつながります。そして、岩戸がチームを組むのは、トッププライベーターの山口です。ライダーとしての能力は誰もが認めるところで、さらにマシンの洞察が深く、バイクを仕上げる能力に長けています。そうでなければ、ワークス系トップレベルと勝負ができないわけですから、セットアップスキルは自ずと上がって行くわけです。その腕前から「セットアップの仕方を近くで学ばせたい」と、今年はアジアロードレース選手権に招かれたほどです。

 そして、もうひとりの小山は、WGPチャンピオンになっていてもおかしくない速さを持ち、世界の舞台で数々のメーカーのマシンを操り、職人芸の域に達したスキルで、何でも乗りこなしてしまう稀有な存在。小山の身長は155cm、山口が170cm、岩戸が180cm、3人で共用する8耐用バイクは中間をとった位置でシートなどセットされるため、小山にはハンドルが遠く、ステップにもつま先が着くくらいになってしまいます。どうやって操っているの?と思うくらいですが、類まれなバランス感覚で、バイクをホールドしながら、神業のような走りを見せているのです。小山に耐久のイメージはあまりなかったのですが「ヨシムラの高吉(克郎)選手のファンで、耐久は嫌いじゃないです」と言います。
 こんなすごい先輩と組んで8耐に参戦できる岩戸にとって、得るものは大きいはず。柳本監督もサポートに駆けつけ、岩戸をフォローします。岩戸は「いつかは1000ccバイクに乗りたいと思っていて、全日本に上がった2年目くらいから、1000ccのライディングを意識した走行をトライしてきました。まだまだなのは自覚しています。でも、このチャンスを自分なりに生かすことができるよう、精一杯頑張ります」と、選手宣誓のように語ってくれました。

 先輩の胸を借り、大事に走ってほしいと願っています。そして、この未来のライダーを育むオーディションという試みが、広がってほしい。レースに真剣に打ち込んでいる先輩たちの背中を近く感じることは、後輩にとって、何事にも代えがたい学びであるはずです。オーディションで構成されたホンダドリームレーシングが目指すのは「6位以内」。その挑戦が、もうすぐ始まります。