WGP日本GP特集(4)
全日本ロードレース第8戦岡山国際サーキット、榎戸育寛の走り(赤松孝撮影)
全日本ロードレース第8戦岡山国際サーキット、榎戸育寛の走り(赤松孝撮影)
 全日本ロードレース選手権JGP2に参戦している榎戸育寛(19)は、WGP日本GPでモト2クラスにワイルドカード参戦を決めました。今季、全日本ロードでST600からJGP2にクラスを変えたのはワイルドカード参戦のため。マシンは型落ちですがカレックス、タイヤはGP仕様のダンロップタイヤを装着して戦ってきました。

 開幕戦筑波は2レースが行われ、連続2位。続くSUGOではリタイヤ、4戦目もてぎでは6位と苦戦します。ランキング上位2位にまで与えられるワイルドカード参戦の権利を得ることができるのか微妙なラインでしたが、上位陣が参戦を望まなかったこともあって、権利を獲得できました。

 ワイルドカード参戦が決まって榎戸は「今年、モト2のワイルドカード参戦を目標に走り出した。ランキング的には権利が獲得できるかのかどうか分からない状況だったが、意思表示として『出たい』と申請したら、OKの返事がきた。そこからはもてぎ(WGP日本GP)のことで頭がいっぱい。全日本を頑張って、もてぎにつなげたいとさらにモチベーションが上がった」と言います。榎戸は、10月1日に行われた第8戦岡山国際を4位で終え、現在はもてぎへと集中。目標は「20位」と語ります。
ワイルドカード参戦を目標に今季走ってきた榎戸育寛(赤松孝撮影)
ワイルドカード参戦を目標に今季走ってきた榎戸育寛(赤松孝撮影)
 昨年の日本GPモト2クラスは、32台出走で7台がリタイアとなった中、ワイルドカード参戦した浦本修充、関口太郎は、それぞれ21位と22位。レースウィークにエンジンを渡され、そこから短時間でセッティングしていかなければならない厳しさを突き付けられた結果でした。それでも世界を夢見るなら、ここに挑戦するしか手だてがないのも事実。榎戸は過酷さを承知で挑戦を選んだのです。きっと無理だろう、ダメだろうと諦めていたら、何も始まらない。やってみなきゃわからないということを実戦してきた榎戸にとって、尻込みするなんて選択肢はありませんでした。

 全日本の若手トップライダーたちは、故加藤大治郎が2003年に始めたDAIJIRO‐CUP出身者が大勢おり、榎戸もそのひとり。そして鈴鹿レーシングスクールへ通い、レース一筋で夢を追い掛けてきました。ですが、レースを続けるには金銭的な負担が大きく、榎戸は2014年の筑波選手権でランキング3位となり、この年を最後にレース活動に終止符を打とうとしていました。

 商業高校に通っていた榎戸は、学業では資格所得に励み、軽音部ではボーカルとして3つのバンドを賭け持ち、ギターで弾き語りが得意の人気者。レースが続けられないことはさみしく辛いことでしたが、「レースはいい思い出にするしかない」と思っていたのです。
全日本ロードレース第8戦岡山国際サーキット、榎戸育寛の走り(赤松孝撮影)
全日本ロードレース第8戦岡山国際サーキット、榎戸育寛の走り(赤松孝撮影)
 ところが、現在の所属チーム「モトバム」との出会いで、2015年全日本ST600のチャンスを掴むのです。元気いっぱいの伸び伸びとしたライディングは目を引くものでしたが、初年度は転倒が続き、ランキング9位。2年目となる2016年は、開幕前から「榎戸が速い」と噂になるほどで、第1戦の筑波から好タイムを連発していたのですが、勢い余って転倒、その後は右手首骨折と苦難が続きます。ランキング6位で迎えた最終戦・鈴鹿、榎戸は優勝を飾り、タイトルを獲得するのです。初優勝にテンションマックスな榎戸は、タイトルを得たことを知ると、雄叫びを上げ、表彰台の上で何度も飛び上がっていました。誰も彼がランクトップに登りつめるとは考えてなく、チャンピオンTシャツが用意されていないのは榎戸だけで、ある意味とても目立っていました。奇跡の逆転劇を演じた榎戸は、初挑戦の日本GPでも、ミラクルを起こしてくれるかも知れません。もてぎでも榎戸のパワーを感じることができるといいなと思うのです。