オフシーズン振り返り企画第6回では、野左根航汰のお話をしたいと思います。2017年度ロードレース日本人枠のMVPがあるとしたら、彼の名前を挙げる人が多いと思います。事実、年末に発表された記者クラブ賞も、JSB1000で念願のチャンピオンとなった高橋巧(ホンダ)と接戦でした。僅差で高橋に軍配が上がるのですが、それくらい野左根の活躍が取材をする私たち、メディアの印象に残ったということです。
 2017年新春に、野左根のヤマハワークス入りが発表されました。走ることが職業だと言える正真正銘の契約ライダーになったことは、喜ばしい話題でした。彼への注目度も高くなり、その期待に応えるように、全日本ロードレース選手権第3戦ツインリンクもてぎでは、初優勝を飾ります。

 野左根は「これまで、先輩の中須賀(克行)さん、ヨシムラの津田(拓也)さん、ホンダの高橋さんのトップ争いに追いつけなかったが、やっとそこに届くことができた」と謙虚に答えていましたが、第5戦のもてぎでも勝利をもぎ取り昨季2勝を挙げ、全日本に新風を吹き込みました。
 ヤマハの若手育成の一環として、世界耐久選手権(EWC)への参戦開始をしていた野左根は、全日本よりもEWC優先のスケジュールだったため、レースを1戦キャンセル、事前テストもできないなど、全日本を満足に戦うことができない状況でしたが、それでも表彰台の常連となり、最終的にランキング5位に食い込むのです。野左根は「EWCで戦えているので、全日本を走っている誰よりもバイクに乗っている時間が長いと思う。そのおかげもあって、勝つことができたと思う。まだまだ足りないところがあると自覚しているが、少しは成長できていると思う」と、EWC参戦を前向きに捉えていました。

 EWCでは、YART−YAMAHAの一員となって、第2戦フランス、ル・マン24時間耐久に初参戦し、2位表彰台を獲得します。その後のレースでもトップ争いの常連となりました。でも、「勝てる力があるチームなのに、なかなか勝つことができない」と悔しさを抱えたまま、ランキング3位でシーズンを終えました。最終戦となった鈴鹿8時間耐久でチェッカーライダーを務めた野左根は、EWC年間表彰式で倒れたほど、レースに全精力をつぎ込む力走を見せ、話題にもなりました。
 そして、鈴鹿8耐の後には、2017〜2018年(EWC)フル参戦を発表。世界チャンピオン獲得を目標に、昨年9月16日〜17日の開幕戦フランス・ボルドール24時間耐久に参戦しました。もうすっかりEWCの一員となった野左根は存在感を示し、初挑戦となるボルドールに挑みました。

 「日本にはないコースレイアウトなので、正直攻略は難しい。それでも、これまでの経験を生かしたい」と挑みセッショントップタイムを叩き出すなど順応性の高さを示します。

 ですが、決勝レースで、コースアウト直後に転倒、モニターに映し出された野左根はしばらく動かなかったのですが、立ち上がってマシンに駆け寄り、ピットまで戻ります。マシンから降りると崩れるように倒れ、そのまま医務室に運ばれてしまうのです。そこからヘリコプターに乗せられ、病院に搬送されました。

 野左根は病院で目を覚ますと、点滴のチューブを引き離し、病室を飛び出そうしますが、駆けつけた看護師に止められてしまいます。野左根は「まだレースは終わってないと思ったから、戻らないと…と、それだけしか頭になかった」と言い、コース復帰を願いますが、絶対安静を命じられ、サーキットに戻ったのは翌朝でした。

 転倒の原因はマシントラブルで、野左根のミスではなかったのですが、そのトラブルは解消することなく、チームはリタイヤとなってしまいました。野左根は転倒からピットに戻った記憶がなく、ライダーとしての本能が、野左根を帰還させたと思うと、彼のレースに賭ける強い思いが胸に迫りました。心配された転倒の影響はなく、関係者は安堵することになりました。
 そして野左根は、昨年10月16日のロードレース世界選手権(WGP)日本ラウンドでモトGPに代役参戦を果たし、あのバレンティーノ・ロッシから「野左根は速いね」と褒められるのです。ヤマハ勢で上位のタイムを叩き出した野左根は、もはや時の人で、多くの報道陣に囲まれることになりました。そこで「モトGP参戦を願ってくれていた父(賢治さん・享年42歳)や阿部(典史・享年32歳)さんの後押しがあって、夢が叶えられたのかな」と語りました。

 野左根のレースを幼少の頃から支えていた父は4年前に、チームノリックの第一期生である野左根にとっての恩人、阿部選手も10年前に亡くなりました。いつか阿部選手のように世界で活躍するライダーを目指して走り続けてきた野左根は、ふたりに恥ずかしくない走りをと、懸命に挑むのです。最終的には転倒してしまい、ケガもあって、思うようなリザルトは残りませんでしたが、たくさんの声援を受けて、世界に「ノザネコウタ」の名が認知された大会になりました。戦い終えた野左根は「夢のような3日間だった」と語りました。その夢が、近い将来には現実となることを、天国のふたりも、多くのファンも願っています。

 今季の野左根が、どんな走りで、夢を紡いで行くのか楽しみ。野左根のライディングスタイルは独特で、一度見たら忘れられないですよ。ぜひライブで楽しんでほしいライダーのひとりでもあります。