最終第6戦タイ・ブリーラムのレース2で優勝を果たした小山知良
最終第6戦タイ・ブリーラムのレース2で優勝を果たした小山知良
 オフシーズン振り返り企画第8回目は、2017年のアジアロードレース選手権(ARRC)最終戦、タイのブリラム、チェーン・インターナショナルのお話。ARRCのトップカテゴリーはスーパースポーツ600(SS600)、AP250、アンダーボーンや、スズキアジアンチャレンジの4クラス。2レース制で、年間6戦開催されています。アジア諸国での二輪車両販売は好調で、各メーカーがてこ入れし、近年のARRCには日本人ライダーが多数参戦しています。SS600の歴代チャンピオンには藤原克昭(カワサキ)清成龍一(ホンダ)高橋裕紀(ホンダ)らが輝いています。

 そして2016年は、小山知良(ホンダ)がSS600タイトル獲得目前のところで、最終戦のトラブルで涙を飲みました。多くのファンは、翌年のリベンジを望んでいましたが、小山はAP250参戦を熱望されてスイッチ。開幕戦がシェイクダウンという状況ながら、セッティングを詰めて、第5戦インドで遂に勝利をもぎ取り、最終戦タイを迎えました。
祖母きくさんが『こやまともよし』で作った語録
祖母きくさんが『こやまともよし』で作った語録
 最終戦に向け、自身のマシン「CBR250W」に詳しい薄井徹也選手を助っ人に召集し、必勝態勢で挑むのです。

 小山の愛称は「コヤマックス」、限界を超える走りをするスタイルからついたもので、常に貪欲な走りでファンを魅了してきました。このタイでは、いつも以上に強い思いが込められていたのです。

 小山の応援団は有名で、大きな大漁旗を振る派手さで目立つということもありますが、親戚一同に加え。支援者からの熱い声援からは、その絆の強さが伝わります。海外レースの時は、時差関係なくTVの前に陣取り応援。その真ん中に座っていたのが小山の祖母きくさん(2017年10月7日に96歳で死去)でした。

 「祖母は、自分の一番最初のスポンサー。バイクを運ぶトランスポーターが壊れて、レースに行けないと困っていたとき資金を援助してくれた。いつも、どんな時も、変わらずに応援し続けてくれていた。遺品整理をしていたら、自分を応援してくれていたことが分かる物がたくさん出てきた。『こやまともよし』で作った語録が日の丸に書いてあったものもそのひとつ。インドの優勝を知らせることはできたけど、その後に亡くなって…。でも、天国にいった祖母は身軽になったから、きっとタイに来ているなと思った。だから、表彰台の真ん中に立ちたかった」
 小山の戦いは予選から始まっていました。ロードレース世界選手権125でチャンピオンを期待され、SS600でもその速さを見せつけた小山を知るアジアライダーたちは後ろに付け、さながら“小山スクール”が展開されます。その中で、小山は決勝を見据えてタイムを調整し、6番手に付けます。

 レース1は、小山の作戦通りの展開となりますが、3台のトップ争いの結果、僅差の3位。続くレース2は、レース1を戦ったことで完璧なシュミュレーションができ、レースをコントロール。集団の争いを避けるため序盤から逃げ、トップ争いを2台に調整します。

 そして最終ラップ突入の1コーナーから小山は仕掛け、最終コーナーの攻防でライバルを先行させるのです。小山はクロスラインでスリップから抜け、トップでコントロールラインを通過します。その差は0.02でした。小山のピットでは、誰もがガッツポーズ、胸がすくレースに「やったー」と大きな叫び声が上がります。
 小山は「トップ争いしたライダーはタイ出身で、初優勝を賭けて挑んでいた。母国で勝ちたい気持ちは伝わっていた。その彼に勝つためには、あいつより強い気持ちで挑まなければならないと思った」と激闘を振り返りました。

 表彰台の真ん中で、きくさんの写真を持ち、君が代が流れ、青空に日の丸が上りました。小山の目は涙で濡れていました。きくさんが作った日の丸の旗も優しく揺れて、小山の勝利を讃えていました。
 今季、小山は再びSS600に挑戦の予定です。タイトルを逃した2016年最終戦の戦いを「スタッフが懸命にマシンを仕上げてくれたことを誰よりも知っているから、トラブルが起きてしまったことは仕方がないし、誰も責めることなんてできない。でも、チャンピオンになった姿を祖母に見せたかった。もう、長くはないことを知っていて、最後のチャンスかなと思っていたから、それだけは残念だった」と語っていました。今年こそ、チャンピオンに相応しい力を持つ小山に、勝利の女神が微笑むことを、天国のきくさんも、多くのファンも願っています。

 小山のレースを見ることができただけでも、タイに来て良かったと思ったのでした。職人芸の極み的、凄いレースだったので、ぜひ、チェックして見て下さい。女性ライダーのムクラダ・サラプーチの闘志あふれる破天荒な走りも必見です。
YouTube「GERRY SALIM JUARA AP250 ARRC 2017」