多くのスポーツは、男性と女性に分かれて争われることが多いですが、全日本ロードレース選手権は男性、女性にクラス分けしていません。2019年J−GP3クラスのフルエントリーライダー全29名のうち女性は5名、そのひとりである中山愛理が引退を決めました。11月2、3日に行われた鈴鹿最終戦を前に、自身のSNSで「最後のレース」と発信し、サーキット入りしていました。

 その後、中山のSNSには「やめないで」「何を言っているんだ」「頑張れ」「モト3を目指せ」「辞めるなら全日本チャンピオンになってから」という反対意見や、「これまでありがとう」「仕方がない」「これからも応援している」など容認する書き込みがぶつかり合い、コメントの投稿者同士が、言い合うような状況となり炎上。憂慮した中山はアカウントを削除したのだと言います。
 昨年、ホームコースである岡山国際サーキットで開催されたJ−GP3クラス第8戦予選で、中山はPPを獲得。場内アナウンサーが「中山愛理がポールポジション(PP)獲得ー」と絶叫したことに中山は、「PPはうれしい。場内に自分の名前を呼んでもらうのも夢だったから、中山愛理〜って叫ばれたことも、ものすごく嬉しい」と無邪気な笑顔を見せていました。残念ながら決勝レースは台風の影響で中止となりましたが、多くのレースファンに中山の名前が浸透したきっかけとなりました。
 今年、大学4年生となって、就職活動と並行してレース参戦を続けますが、「全日本を走るのは今年限り」と決めていました。
 開幕戦ツインリンクもてぎでは、再度PP獲得を期待させるほどの絶好調ぶりでしたが、最終ラップに逆転されてしまい、「1番だと思っていたのに結果2番手。でもPPだと緊張するでしょう?だから、2番手でも上出来です。ここから優勝目指します」と、元気な声を響かせました。

 その言葉通り、決勝でもトップ争いを繰り広げ、激しい2位争いを制して表彰台に駆け上がるのです。1993年の井形とも子以来、26年ぶりの女性ライダーの表彰台でした。その後も活躍が続き、レースの楽しさも辛さも、これまでとは違った次元で感じるようになり「もっと頑張りたい」という思いと、「辞めると決めた」自分との葛藤が続くことになります。

 「バイクが好きで、レースが好きな気持ちに変わりはないし、たくさんの人が引退を引き留めてくれた。応援してくれる人も増えました。今年限りだと集中できたから、良い成績が残せているのかなとも思う。このモチベーションをもう1年続けられるのか、自問自答し続けました。でも、決着をつけなければならない。だからSNSで辞めると宣言したんです。そうしないと、また決心が揺らぎそうだから」。
 中山はバイク好きの父・慎一郎さん、母・晴世さん、兄・翔太さん、弟・耀介さん、妹・恵莉菜さんの5人家族。2歳上の兄と一緒にポケバイに乗り始め、その後は弟も乗り始めるというレース一家で育ちました。子どもの頃は、ちょっとでも真剣さが足りないと怒られ、レースの厳しさを叩き込まれます。そして、同時に面白さも知り、家族の絆を強めながらサーキットへと通い続けました。

 将来を期待されるライダーへと成長した翔太さんが、2015年交通事故のため他界。中山は「自分よりすごいライダーだった兄の速さを証明するため、自分が強くならなければ」とレースに打ち込みます。失意に沈む家族を励まし、頑張り続けました。その後は受験のための1年のブランクを経て、「TEAM SHOTA」で復活します。

 プライベートチームでの参戦は金銭的にも苦労が多く、大学とアルバイト、そしてレースと、多忙な日々を送る中で、「兄のためから、自分のためへと気持ちが変化し、兄の残したタイムを超えることが目標になりました。速くなりたい」と、挑戦の日々の中で、速さが磨かれました。

 今季の成績位は、開幕戦2位、第2戦で6位、第3戦は7位、第4戦は4位、第5戦は8位、第6戦は6位。そして最終戦鈴鹿は、追い上げの最中に接触転倒、リタイヤとなってしまい、目標だったランキング3位から5位へとダウンしてしまいました。ですが、昨年のランキング14位から急浮上し、トップ争いの常連として存在感を示し続けました。

 これからなのに、これからもっと速くなるだろうに、と惜しむ声が聞こえていましたが、中山は「就職も決まり、内定式も終わりました。来年からは社会人として自立し、親に負担をかけず、バイクと自分のいい距離を見つけたい。趣味としてのモトクロスやトライアル、エンデューロ、ツーリングと、バイクの楽しみはいろいろとあります。今までのレース人生、楽しいことばかりではなかったけど、楽しいことの方が多い。笑顔で走り続けられたことに感謝しています。支えてくれた人には感謝しかない」と、5歳から17年間、懸命に打ち込んできたレース活動に終止符を打ちました。

 中山の笑顔は、チャーミングで、こちらも笑顔になれました。これからの人生の方が、ずっと長い。レース界でここまで頑張れたことを誇りに、今まで以上の笑顔で歩んで欲しいと願っています。レース界を明るく照らしてくれた中山の活躍に、心から感謝しています。