2019年シーズンの全日本ロードレース選手権ST600クラスは、エントリー台数が増え、予選落ちもあってまさに激闘を繰り広げました。そんなシーズンを制して王者に輝いたのは、ロードレース世界選手権やアジアロードレース選手権でタイトル争いを繰り広げた経験を誇る小山知良(ホンダ))。前年2018年シーズンは若手の岡本裕生(ヤマハ)との戦いの末に敗れましたが、見事リベンジを果たし、19年ぶりの全日本チャンピオンとなりました。

 そして、昨季のST600クラスで成長著しい活躍を見せ、注目を集めたのが、チーム「AKENO SPEED・YAMAHA」から参戦した南本宗一郎です。
 南本は、父親がバイク雑誌でオリジナルポケットバイクの74Daijiroを見つけ、6歳の誕生日プレゼントしてくれたことがきっかけでライダーの世界に足を踏み入れます。バレンティーノ・ロッシに憧れ、世界への夢を追いかけて、鈴鹿レーシングスクールにも通いました。

 そして2016年には、バレンティーノ・ロッシが主催するライダー教室「VR46ライダーアカデミー」の第1回マスターキャンプの参加ライダーの一人に選ばれます。その後も2度アカデミーに参加、ロッシの故郷であるイタリアのタベェッリアで、ダートトラックコースの「ランチ」で一緒にトレーニングしたという逸材です。

 2017年、南本はアジアロードレース選手権(ARRC)のAP250と全日本ロードレース選手権にダブルエントリーします。2018年からは全日本に専念、同時に大学の進学を決め、大学とアルバイト、そしてレースと忙しい毎日を過ごしますが、2019年は「勝負の年」として、大学を休学し挑みます。
 迎えた開幕戦もてぎ、南本は3位に食い込み初表彰台を獲得、続く第2戦でも3位となり、連続表彰台をゲット。そして、昨年6月にはARRCのスーパースポーツ(SS)600日本ラウンド(鈴鹿)にスポット参戦します。SS600クラスはピラポン・ブーンラット(ヤマハ・タイ)が開幕戦から6連勝中で、連勝記録を伸ばすどうかに注目が集まっていました。

 決勝レース1、そのブーンラットがポールポジションからスタートしてレースをリード。これにカズマ・ダニエル・カスマユディン(ヤマハ・マレーシア)が続き、3番手に南本がつけます。レース終盤になると、カスマユディンが前に出て、続く南本もブーンラットを交わし2番手に浮上、そしてシケインのブレーキングでカスマユディンを交わしトップに立つと、そのまま逃げ切って初優勝を飾ります。お手本のようなレース運びに、誰もが目を見張りました。

 決勝レース2はブーンラットが勝利、南本は3位となりますが、連続表彰台を獲得し、その力を示します。南本はARRC、AP250に参戦経験があり、アジアを戦うライダーやスタッフに知り合いも多く、彼らは南本の成長に祝福を寄せていました。
 その後、南本は鈴鹿8時間耐久ロードレースに挑みますが、練習走行中に200Rで大クラッシュ。大ケガを負ってしまい、万全ではない体調で全日本残りのレースを戦うことになります。

 そして、ランキング5位で迎えた最終戦鈴鹿の決勝、スタートから飛び出した南本は小山とトップ争いを展開します。最終ラップ、小山はスプーンカーブでトップに立ちますが、裏ストレートの立ち上がりで小山に並び、そのままパス。130R、シケインと小山を抑え、全日本で初優勝を飾りました。この勝利でランキング2位を勝ち取りました。
 南本は「ランキング2位の上は1位しかないので、そこを目指します」と言います。今年も大学は休学、レースを最優先することを決めました。南本は「ヤマハワークスに声をかけてもらえるようなチャンピオンになりたい」と目標は明確。ヤマハファクトリーに入った野左根航汰も、育成チームであるYAMALUBEにいる前田恵助も、全日本チャンピオンとなってその扉をこじ開けました。

 手足が長くてやせ型でスタイルが良く、優しげなイマドキの男の子ですが、その中に秘めたガッツは本物。鈴鹿8耐でのケガも、第3ライダーが走れなくなり、兼任監督のペアライダー稲垣誠をサポートしようと、ひとりで8時間走り切る意気込みとその闘争心が仇となったようです。脾臓損傷、左肩甲骨骨折という深刻なケガも「たいしたことないです」と言い切る男らしさが魅力。今年大注目のライダーのひとりです。