第310回
ヤマハに復帰して2年目のシーズンを迎えた芳賀紀行とチームメートのA・ピット。「ヤマハ・モーター・イタリア・WSB」というヤマハのナンバー1チームでタイトル獲得が期待されていた。この当時は、カタールか、オーストラリアでこうしてチームのフォトセッションを行っていた
ヤマハに復帰して2年目のシーズンを迎えた芳賀紀行とチームメートのA・ピット。「ヤマハ・モーター・イタリア・WSB」というヤマハのナンバー1チームでタイトル獲得が期待されていた。この当時は、カタールか、オーストラリアでこうしてチームのフォトセッションを行っていた
 スーパーバイクの開幕戦、カタール大会を終えて帰国した日に、オランダに住む知り合いから緊急連絡が入った。

 「カタールからオランダにいったん戻ってきたAさんがアムステルダムの空港でカバンを盗まれたらしい。パソコンも携帯電話も、何もかもとられたようだ。パスポートとチケットだけはあるので、とりあえずオーストラリアに向かったが、エンドーさんにパソコンを買って来てほしいと伝言がありましたよ」

 Aさんは選手たちのマネジャー業を行っている人で、タビビト業の大先輩でもある。その人がカバンを盗まれるなんてことは想像しにくいが、その知り合いも別の人からの伝言であり、詳しい状況は分からないとのこと。

 事態は急を告げている。そういう僕も、帰国からわずか2日の滞在でオーストラリアに向かわなければならず、何が何だか分からないまま、近所のヨドバシカメラに向かい、パソコンを購入してきた。

 それにしても、この世界のベテランで、タビビト生活17年の僕など足元にも及ばないAさんに、一体何が起きたのだろうか。商売道具のパソコンと携帯電話がなくなり、さぞかし、困っているのだろうなあと思ったのだ。

 思えば4年前に僕もスペインのスーパーマーケットの駐車場でカメラやパソコンの入ったカバンを盗まれた。たまたま知り合いと会い、車の見える場所で立ち話をしていたのに盗まれてしまった。警察官に手口を聞くと、窃盗団はワンボックスのような車を使い、駐車スペースを探しているふりをして、狙った車を瞬間的に目隠しする。車は動いてる状態だが、反対側のドアから仲間が降りて、窓ガラスを割り……というものだった。

 あのときは、目の前が真っ暗になった。もちろん保険に入っていたし、日本に帰れば何とかなるだろうと思っていた。しかし保険会社は警察の被害届では足りず、本当に盗まれたのかどうかを証明しろと言い出し、じつに嫌な思いをした。そういう経験があるだけに、Aさんの心境察するに余りあるという感じだった。

 これからオーストラリアへ向かう。自分のパソコンが2台あって、さらに新品があって、計3台のパソコンを持って機内の人になる。もし、税関で「なんで3台も持ってるんだ?」と言われたらどう説明すればいいのだろうか。

 そんなときに、Aさんからのメールが届いた。念のためにと思ってメールしておいたのだが、どうやら移動中のシンガポールの空港で受信したらしい。空港内のパソコンからのフリーメールには、「何もないので連絡も取れませんでした。でも、何もないというのは、心地いいかも」と書かれていた。

 さすがに大先輩。パソコンにカメラに……と、年々重くなる仕事道具。もう盗まれるのは二度とごめんだが、Aさんの気持ちがなんとなく分かるような気がしたのだ。(えんどう・さとし=GPライター)

■2006年3月1日掲載
こちらは、ヤマハ・モーター・フランスのチーム・フォト。左から中冨伸一、ノリック、S・ジンベール。3台体制だった。このころのWSBには、ヤマハ・イタリア、ヤマハ・フランスというふたつのオフィシャルチームがあり、日本人選手が3人。いやー、このころのWSBは元気があったなあと思いますね
こちらは、ヤマハ・モーター・フランスのチーム・フォト。左から中冨伸一、ノリック、S・ジンベール。3台体制だった。このころのWSBには、ヤマハ・イタリア、ヤマハ・フランスというふたつのオフィシャルチームがあり、日本人選手が3人。いやー、このころのWSBは元気があったなあと思いますね
これはヤマハのオフィシャルチームの集合写真。左からWSSにヤマハ・ジャーマニーから出場のB・パークスとK・カーティン。そして、スーパーバイクの面々が並ぶ
これはヤマハのオフィシャルチームの集合写真。左からWSSにヤマハ・ジャーマニーから出場のB・パークスとK・カーティン。そして、スーパーバイクの面々が並ぶ
こちらはスズキのオフィシャルチームで、このころのスズキ・アルスターは、なんと3台体制だった。左からF・フォレ、加賀山就臣、T・コルサー。どのチームも豪華メンバーだった
こちらはスズキのオフィシャルチームで、このころのスズキ・アルスターは、なんと3台体制だった。左からF・フォレ、加賀山就臣、T・コルサー。どのチームも豪華メンバーだった
この写真は開幕戦カタールGPで大接戦となった芳賀紀行とJ・トーゼランドのゴールシーン。写真判定となり、わずか1000分の1秒差で芳賀が先着した。懐かしい写真を見つけたのでアップしますね
この写真は開幕戦カタールGPで大接戦となった芳賀紀行とJ・トーゼランドのゴールシーン。写真判定となり、わずか1000分の1秒差で芳賀が先着した。懐かしい写真を見つけたのでアップしますね


 この年のスーパーバイク世界選手権は、実力ある日本人選手が大勢参戦していて、あらためて賑やかなシーズンだったなあと思う。カタール、オーストラリアと続く2連戦は、ハードスケジュールだが、絶対に取材にいかなくちゃと思わせてくれたものだ。そして、当時の資料や写真を見ていたら、かっちゃこと藤原克昭が開幕戦カタール大会で転倒、左手首を骨折、日本に帰国していた。これは当時のトーチュウのニュースでも使った写真だが、タイトル獲得まであと一歩のかっちゃん。厳しいシーズンのスタートになっていた。