第445回
セパンの左ヘアピン、9コーナー進入で左足を出すV・ロッシ。09年のウインターテストで実験的にこの走り方を始めて注目を集めた。最初は左コーナーだけ。次第に右コーナーでも右足を出す走り方は、瞬く間にライダー間に伝播。元祖足出し走法を開拓したロッシは「一回足を出す毎に10ユーロ」と笑わせていた。モトGPクラスの様々な規制とタイヤの1社供給によってブレーキングがどんどん重要になっている事を教えてくれた
セパンの左ヘアピン、9コーナー進入で左足を出すV・ロッシ。09年のウインターテストで実験的にこの走り方を始めて注目を集めた。最初は左コーナーだけ。次第に右コーナーでも右足を出す走り方は、瞬く間にライダー間に伝播。元祖足出し走法を開拓したロッシは「一回足を出す毎に10ユーロ」と笑わせていた。モトGPクラスの様々な規制とタイヤの1社供給によってブレーキングがどんどん重要になっている事を教えてくれた
 グランプリのテスト禁止期間は2カ月間。冬の寒さの中で縮こまっていた体に熱帯の国マレーシアの暑さは何とも気持ちが良かった。ピットロードではコンクリートからの照り返しを全身に浴び、コースサイドでは真上から降り注ぐ熱帯の太陽光線を浴びて、肌がジリジリと焼けていく。短パンにTシャツ姿で帽子はなくてはならない必需品。今季初テスト取材となったセパンは珍しくスコールもなく、3日目が終えたときは「となりのトトロ・千と千尋の神隠し」に出てくるキャラクターの“まっくろくろすけ”になってしまったのだ。

 今回はモトGPのすべてのチームが参加し、選手はニューマシンのシェークダウンに精を出したが、パドック全体にどこか覇気がない。先の見えない世界同時不況と厳しいチーム運営のことばかりが話題に上がる。移動もこれまでビジネスクラスだったワークスチームがすべてエコノミーに。テストということもあるが、ピットのつくりも予算削減の影響を感じさせるものだった。
難しいドゥカティをただひとり乗りこなすC・ストーナー。彼の走りが長年ミシュランで戦ってきたホンダとヤマハをブリヂストンにスイッチさせる大きな理由だった。そして、09年からのタイヤ1社供給へとつながっていく。ストーナーのアウトラップの速さは伝説的。とにかく走り出したらいきなり全開という選手だった
難しいドゥカティをただひとり乗りこなすC・ストーナー。彼の走りが長年ミシュランで戦ってきたホンダとヤマハをブリヂストンにスイッチさせる大きな理由だった。そして、09年からのタイヤ1社供給へとつながっていく。ストーナーのアウトラップの速さは伝説的。とにかく走り出したらいきなり全開という選手だった
 今年からタイヤがブリヂストンの1社独占供給となり、使える本数もスペックもすべて同じになった。そのためウインターテストの大事なメニューのひとつだったタイヤテストがなくなり、1日の周回数も激減。これまでは100周前後を走る選手も珍しくなかったが、マシンテストだけになった今年は平均50周前後だった。

 このコラムではなるべく不景気な話題を避けようと思ってきたが、もはや避けて通れない状況である。モトGPのワークスチーム撤退や経費削減ばかりが話題になるが、もともと金銭的に厳しい他クラスや、違うカテゴリーのプライベートチームは一段と苦しい状況に追い込まれている。昨年の契約金をまだもらっていないという選手も少なくない。とにかくレース界の負の連鎖はとどまるところを知らないのだ。
08年に大活躍を収めたJ・ロレンソ。エースのロッシにとっては、驚異であり脅威のルーキーだった。とにかく二人の間には冷たい空気が漂う。近い将来、どちらかがヤマハを出て行くことになるだろう、ということは容易に想像がついた
08年に大活躍を収めたJ・ロレンソ。エースのロッシにとっては、驚異であり脅威のルーキーだった。とにかく二人の間には冷たい空気が漂う。近い将来、どちらかがヤマハを出て行くことになるだろう、ということは容易に想像がついた
 今回のテスト期間は、マレーシアの華人にとって旧正月のまっただ中。いつもなら、ホテルもレンタカーも予約を取るのが大変だと思っていたのだが、簡単に取れたことが不思議だった。しかし、クアラルンプールの空港に到着してみたら閑散としている。不況時代を身をもって感じとることになった。

 暗いニュースは、やっぱり、書いていて気持ち良くない。まっくろくろすけになって帰国した日、ふと手にした雑誌にこんなことが書かれていた。映画の王様チャプリンが「あなたの最高の傑作は?」と聞かれる度に、「ネクスト・ワン」(次の作品だよ)と答えていたという話である。実に元気の出る言葉だなあと思ってしまったのだ。(GPライター)

■2009年2月12日掲載
ホンダからドゥカティに移籍したN・ヘイデンの後釜として、スコットRTからHRC入りしたA・ドビツィオーゾ。J・ロレンソに続いてA・ドビツィオーゾがワークス入りしたことで、世代交代が始まったことを感じさせていた
ホンダからドゥカティに移籍したN・ヘイデンの後釜として、スコットRTからHRC入りしたA・ドビツィオーゾ。J・ロレンソに続いてA・ドビツィオーゾがワークス入りしたことで、世代交代が始まったことを感じさせていた


 09年のウインターテストの話題は、この年からモトGPクラスに参戦する高橋裕紀の走りだった。HRC入りしたA・ドビツィオーゾの後釜としてチームメートだった裕紀がスライドしていくのだが、これから半年後に起こるチームの崩壊を想像することは出来なかった。プライベートチームのライダーやメカニックへの給料未払い、スポンサーの契約金未払いなど、暗い話題がパドックでささやかれ始める。世界不況のまっただ中で始まった09年のウインターテスト。世界不況の影響は、実はまだ始まったばかり。ここからが本格化していくのである。