第446回
マレーシアのセパン・サーキットのパドックにある「タビビトノキ」。初開催となった1999年のときは苗木だったものが16年が過ぎてこんなに大きくなった
マレーシアのセパン・サーキットのパドックにある「タビビトノキ」。初開催となった1999年のときは苗木だったものが16年が過ぎてこんなに大きくなった
 タビビトノキは、大きなものになると20mまで成長する植物で、インド洋に浮かぶマダガスカルが原産地である。10年ほど前、地方の放送局に行った時、吹き抜けのロビーにどどーんとそびえ立つデッカイ植物があり、何だこれは?と思った。バナナの木のようだがそうではない。説明書きを読むと、その昔、マダガスカルのジャングルに入った探検隊が茎を切ってのどを潤したことからトラベル・ツリー(和名タビビトノキ)と名づけられたと書かれていた。その時、このコラムのタイトルを「タビビトノキ」にしようと思った。

 1年のうち300日ほど海外生活をしているので、このタイトルが気に入っている。しかし今年は例年に比べて日本にいる時間が多く、書店に行くと旅にまつわる本をつい手にしてしまう。今まで行ったことがない国や場所の話は面白い。それを読んでいるとますます旅に出たくなるので困ってしまう。

 先日もベトナムの本を読んで驚いた。ベトナムは温暖な気候なので1年に3回米を収穫できる。3期作でなく、自分の都合のいいときに田植えをするので稲の成長はまちまち。足並みそろった田園風景には程遠いとあり、あらためて世界は広いなあと思った。

 確かにバナナやパイナップルなど熱帯の果物は1年中採れる。日本でもみかんが1年通じて収穫できる地方があるし、バレンシアも1年中オレンジが実をつけている。日本でも南では2期作が可能だが、米は春に田植えをして秋に収穫すると思い込んでいたタビビトにはベトナムの稲作は驚きだった。どのタイミングでも田植えができるのは素晴らしい。まさに自然の恵みである。

 アジアの国々ではこうして普通に田園風景を見られる。欧州でも北イタリア地方で稲作が盛んでトリノからジェノバへ向かう高速道路A26、A21号沿線に水田が広がっている。乾いた欧州大陸では異色を放っているし、日本にいるような気持ちにさせてくれる。そこで欧州で水田稲作を行っている国は…と調べると、何と北イタリア地方だけと知り、驚いた。モンスーン作物の米が欧州に伝わったのはスペインが最初で、今はイタリアが本場なのだそうだ。

 田園風景を見ていると不思議と落ち着く。タビビトノキの故郷マダガスカルは世界で一番米を食す国といわれる。そこに惹(ひ)かれるタビビトもまた、つくづくご飯の国の人間なのだなあと思うのだ。 (GPライター)

■2009年2月19日掲載



 今年(2014年)のマレーシアGPのときに撮影したセパンのパドックの風景。熱帯の太陽とスコールが植物をどんどん成長させる。サーキットの完成は1998年。初テストでセパンを訪れたときは工事が終わったばかりで緑がまったくなく、パドックのあちらこちらに熱帯植物の苗木が植えられていた。それが今ではこんなに大きく成長した。マレーシアのライダーも大きく成長。2014年の大会にはワイルドカードを含めて5人のライダーが参戦した。