第23回
 5人がタイトルを争う今季のF1だが、ベルギーGPでは明暗がはっきりと分かれた。目まぐるしく天候が変わるスパのコースが5人のファイナリストをふるいにかけたかのようだった。もちろんまだタイトルは決着していないし、5人にチャンスがあることは変わらない。しかしタイトル争いをしている5人の“情熱”と“冷静さ”のバランスを試すという意味で、スパは試金石のように思えた。

 勝ったハミルトンがインタビューで言ったように、今回のようにさまざまなリスクがある場合は“安全”が優先される。そしてハミルトンは見事にそれを実行して勝った。スタートこそ失敗したが、ウェーバーの2位も確実な走りの結果だ。逆に若きベッテルは“大暴れ”してノー・ポイント。最善を尽くしたバトンは哀れそのベッテルのミスに巻き込まれてしまった。

 確かにベッテルの速さや勝利への情熱は感動的といえるくらい素晴らしい。だがドライ・コンディションにギア比が合っていない状況で、バトンへの追い抜きはリスクがあった。タイトル争いという精神戦の中で気持ちが空回りしたのだろう。

 速さを求めるF1で逆説的な話だが、僅差(きんさ)のタイトル争いでは2位や3位でポイントを貯金する割り切りが必要だ。特に浮き沈みの激しいF1ではタイトル争い自体が千載一遇のチャンス。ベッテルのような才能あふれるドライバーが焦りで自滅するとしたら悲しい。

 まだ残りレースはある。次は他のドライバーに同じことが起きるかもしれない。実際、レース巧者のアロンソでさえ、今回はクラッシュでリタイアした。ベッテルには、今回の失敗を糧に、モンツァへ挑んでもらいたい。

 同じような視点で見たとき、小林可夢偉選手の8位は秀逸だ。肝は早めのタイヤ交換ではない。路面とタイヤのマッチングはドライバーが一番よく分かる。つまりタイヤ選択とマネジメントが正しかったということだ。このことが何を意味するのか? “情熱”と“冷静さ”。F1を目指す若い選手たちにも考えてもらいたい。

 しかし、かく言う僕も94年のベルギーでは大失敗をした。雨の中、スリックで走っているのはミハエル(シューマッハー)と僕だけ。そして周囲より6〜8秒も速いラップで走っていた時、気持ちがはやってしまった。今回のアロンソと同じマルメディでスピン。せっかくのチャンスをふいにした。

 というわけで全然偉そうに言えないわけだが、解説という客観的立場になるといろいろ見えてくるものだ。F1ドライバーになる前にF1の解説者をやっておけば良かった。(レーシング・ドライバー&冒険家)