第32回
 先週、仕事で北京に行ってきた。中国といえば尖閣諸島の領土問題で何かとネガティブな印象があるが、日本で報道されているほど過熱している様子はなかった。抗議行動などはあるのだろうが、人々の関心は尖閣諸島問題だけではない。発展する経済における所得格差など、身近な問題への関心もある。むしろ、僕ら自身がそうであるように、暮らし向きに対する問題意識の方が強いように思えた。

 もちろん僕は尖閣諸島の歴史的背景は理解していないし、実際にそこで漁業をなりわいとしている方々のことも肌身で感じているわけではない。だから無責任なことは言えないが、メディアがあおるまま双方で揚げ足を取っていたら何も解決しないような気がした。先人が「未来が解決してくれるだろう」と先送りしたのと同じか、力学で決まってしまうかだろう。

 夢物語かもしれないし批判を受けることを承知で言えば、そういう状況であっても、相互理解を深めるために交流をやめてはいけないと思う。

 たとえばモータースポーツの世界ではいよいよアジアがつながろうとしている。F1が中国、シンガポール、日本、韓国とアジア圏で行われ、F・BMWアジアも転戦するようになった。恐らく中国人や韓国人のF1ドライバーも誕生するだろう。日本は後れをとっているが、経済発展という意味でアジア圏は熱い。そうなるとアジアがF1を目指す若者のステップアップの場となることも増えてくる。

 昔、ヨーロッパ圏がF1やサッカーというスポーツを通して、あるときはナショナリズムを戦わせ、あるときは一体となったのと同じように、アジア圏もそうなってほしい。不幸な歴史や国境紛争は地球のあちこちである。しかしグローバルなスポーツはそのいさかいを超えて人々の動きを生む。フォーミュラ・ニッポンやスーパーGTもアジア圏のドライバーが増えるかもしれない。スポンサーも日本企業だけとは限らない。

 これは芸術や科学、雇用という面でも同じことだろう。インターネットが普及し、情報も買い物もグローバルな昨今、若い人はぜひとも日本という枠組みを外して行動してほしい。

 ただ、その時には日本人というナショナリティーを胸に刻んでいかないとしっぺ返しが待っている。国家間の諸問題や歴史を知らないで中国や台湾に行くことはできないし、自分自身の誇りも必要だ。

 これまで僕らはアジアのことを知らなすぎた。今の中国と日本の状況は、その意識を変えるひとつの契機かもしれない。(レーシング・ドライバー&冒険家)