第117回
 絶好のチャンスを目の前にしながら、流れが自分に無い時や思うようにいかない時、人間は自分への怒りを感じる。「なんであんなことをしたのか?」「あそこで、ああすれば…」。悔しさと怒り。そして、それが焦りとなってさらに深みにはまることも多い。そういう時は辛抱が必要なのさ。僕自身いまだにその辛抱ができないから、他人に言える立場ではないが、今の可夢偉には「今こそ辛抱だ」と声をかけたい。

 混戦のヨーロッパGP。地元アロンソが不況の母国にささげる勝利を飾った。それはそれでハッピーエンドではあったが、われらが可夢偉にも「勝負をする権利」はあったと思う。素晴らしいスタートを決めて序盤はライコネンの前を走り、マシンパフォーマンスも高かった。たしかに母国GPのアロンソの集中力は素晴らしく、負けたかもしれない。しかし、少なくとも「勝負をする権利」はあった。それが、6.2秒というピットインによるロス(ロスは約2秒)をきっかけとして、普段の可夢偉からは考えられないようなブルーノとマッサとの接触。不条理な悪循環に陥った。反対に勝ったアロンソは好機をうかがいながら自分を信じて堂々と闘っていた。

 本当に残念やら悔いやらで、自分の体験も重なって、可夢偉の置かれている状況や気持ちが想像できる。

 僕も目の前にぶら下がった栄光を、いろんなことがあってつかみ損ねた。一瞬の判断で好機を失った時、自分への怒りから無理やりに失地を挽回しようとして傷を広げたりした。焦ってはいけないことは分かっている。でも、つかめたはずの成功が手からこぼれそうになった時、人は自ら悪循環を呼び込んだりするものだ。

 つぶしたチャンス、残りレース数、他チームの開発スピード、5グリッド降格、批判、チームメートの存在、ピット作業でのロスタイム、そして自責の念。いろいろとあるだろう。どうしようもない風が吹いている。こういう時は嵐が去るのを待てば良い。背をかがめて声を殺して、とにかく落ち着いて辛抱することだ。かっこ良く見えるからって思い通りにならない事を、力でねじ伏せようとしては絶対に駄目だ。レース中も同じ。可夢偉には勝てるだけの才能がある。それを信じて闘えばチャンスはまた来る。

 これはあくまで僕の体験から来る臆測からの話。だから、ひょっとしたら可夢偉はふてぶてしくサラリと流すのかもしれない。「右京さん。大丈夫ですよ。僕はちっとも焦ってなんかない」。信じてるよ。そして祈っている。次はうまくいくよ。(Team UKYO代表)