あんなに冷静だとは……〜琢磨の走りにもビックリ
第10戦アメリカGP編
次々と指示を出すインディアナポリスの亜久里代表(カメラ=神代雅夫)
次々と指示を出すインディアナポリスの亜久里代表(カメラ=神代雅夫)
 2台そろってリタイアと、アメリカGPのスーパーアグリは最悪の結果に終わった。新車「SA06」の投入もアクシデントがあって遅れることになるなどマイナス材料が重なるが、鈴木亜久里代表(45)は常に前向き。山本左近(23)を褒め、佐藤琢磨(29)の予選パフォーマンスを称賛する。この明るいパワーがチームをグイグイ引っ張っている。

           ◇     ◇     ◇

 まず最初に、新車SA06の投入が1戦遅れて次戦フランスからではなく、ドイツ・グランプリになったことを報告しなければならない。

 フランスにはギリギリ間に合うと言ってきたが、実は3週間ほど前に予期せぬ出来事が発生。空力パッケージの開発に不可欠な風洞(ウインドー・トンネル)が壊れたのだ。具体的にはクルマの模型の下で動く路面の働きをするムービング・ベルトという装置が切れてしまい、その修理に1週間を要してしまった。これがフランスで新車を投入する予定が崩れた最大の理由だ。

 このアクシデントが発生する前はオンタイムに来ていただけに残念だし悔しいが、ファンのみなさんより我々チームのスタッフやドライバーの方がガッカリしているほどだから、そのあたりの思いは察してほしい。でも、レースと同じでアクシデントばかりはどうしようもない。

 そこで新車はプレス・リリースにも書いたようにドイツ・グランプリからということになったが、実はドイツにデビューするSA06は本当の意味での新車ではない。というのも、フロント・サスペンションの製作が間に合わず、その部分だけは現行のSA05のパーツを使って走る。だから正確にはドイツで走るSA06は05とのハイブリッドということになる。

 サスペンションはご存じのようにカーボン・ファイバー製品だが、これは図面ができてからすぐに製品化できるものではない。まず、めす型を作ってそこで樹脂製のパーツを成形してから取り出し、オーブンに入れて高温で焼成するが、工程を短縮化することができないのだ。そんなことで、完全に新車のSA06は8月上旬のハンガリーになることをあらかじめお断りしておきたい。

 さて、アメリカGPだが、サード・ドライバーの山本左近は今回もいい仕事をしてくれた。すでにカナダからレギュラー・ドライバーとそん色ない走りはできていたのだが、インディアナポリスでも20周連続のタイヤ確認走行など非常に安定していたし、なにより素晴らしいのはまったくミスがないことだ。乗りにくいクルマをよくあれだけ走らせるものだと感心する。ミスがないというのは大事なことで、左近があんなに冷静なドライバーとは思わなかった。思ったよりはるかに優れたドライバーだということをあらためて確認した。

 チームとのコミュニケーションもよく取れていて「エンジニアには言いたいことはどんどん言え」とあらかじめ伝えてあったのだが、それも完ぺきにできている。積極的に発言すること自体が、チームからの評価につながるのだ。

 フランスからも左近をサード・ドライバーとして使っていく可能性は大いにあるが、それは第2ドライバーをモンタニでいくのかどうかということも併せて東京に戻ってから考えたい。バーニー・エクレストンからはフランス・グランプリだからフランス人を使ってはどうかと言って来ているが、最終的な判断はボク自身がする。

 左近も素晴らしかったが、予選で18番手のグリッドを得た佐藤琢磨にもビックリした。クルマのポテンシャルより1秒速いと思えるほどで、2004年の3位表彰台の実力はだてではなかった。

 インディアナポリスのコースは直線部分が長く、コーナーの半径が小さいから、たとえばシルバーストーンや鈴鹿といったサーキットよりずっとダウンフォースがタイムに占める割合が少ない。それが他車との差を縮めた理由だと思うが、それにしても琢磨はよくやった。

 しかし、レースはすぐに終わってしまった。モンタニはオープニング・ラップの1コーナーで他車とぶつかってリタイア。あれは行き場がなくどうしようもなかった。

 いっぽう琢磨は11番手に上がっていたが、セーフティーカー明けの1コーナーでモンテイロと接触。トラックロッドを壊してリタイア。我々のようなチームは今回のような荒れたレースでチャンスをうかがうしかなく、そういう意味ではもったいないリタイアだったが、止まってしまってはどうしようもなかった。

 次戦フランスはSA05での最終レース。マニクールはまたダウンフォースが必要なサーキットとなるが、できる限りのことはしたいと思う。(鈴木亜久里)