ヤマハ さらに進化した「YZF-R1」を強力布陣が駆る
さらに進化したYZF−R1に好感触を得た王者・中須賀(竹内英士撮影)
さらに進化したYZF−R1に好感触を得た王者・中須賀(竹内英士撮影)
 JSB1000で9度も王者に輝き、今季は3年連続10度目のタイトルに挑む「ヤマハ・ファクトリー・レーシングチーム」の中須賀克行(38)、この絶対王者に肉薄するチームメートの野左根航汰(24)が新型「YZF−R1」を駆る。その2人を率いるのが吉川和多留監督(51)だ。さらに育成チーム「ヤマルーブ・レーシングチーム」の難波恭司監督(57)の元で前田恵助(22)が継続参戦と、ヤマハは強力な布陣で全日本に戦いを挑む。
 吉川監督はヤマハファクトリーライダーとして2度(1994、99年)全日本ロードのスーパーバイククラスでチャンピオンに輝き、2006年にアドバイザーに就任。15年に監督に就任してからは、中須賀のタイトル獲得を支えるとともに、チーム全体の底上げに尽力。また、モトGPマシン「YZR−M1」の開発にも関わってきた。

 中須賀と吉川監督はまさに二人三脚。「家族以上に一緒にいるように思う。父のようでもあり兄のようでもあり、自分を支えてくれる、なくてはならない存在」と中須賀は吉川監督を評せば、吉川も「監督として中須賀に育ててもらったという思いが強い。お互い、腹を割って話し合い、結果を残すために何ができるか考えてきた。中須賀は進化し続け、攻め続け、時には転倒もあってハラハラさせられるが、現状に甘んじないところが魅力」と応える。

 昨年、中須賀は第2戦レース1で転倒してノーポイント。ランク首位の高橋巧(ホンダ)に大差をつけられた。だがそこから反撃を開始し、最終戦で劇的な逆転劇を生んだ。圧倒的有利に立っていた高橋を抑えて9度目のタイトルを手繰り寄せたのだ。

 「結果を考えたら2位でいいと考えるレースも必要。だけど、トップでいる以上、勝ち方にこだわり、誰もが納得する走りを追求することは大事だと思う。プロである以上は、求められていることに応えなければならない」と強い決意をにじませる。

 また、「記録に縛られてはいないが、(モトGPの)バレンティーノ・ロッシは9回のタイトルを獲得。戦う場所は違うが、同じヤマハライダーとして、ロッシより先に10回目のチャンピオンを獲得できたらと思う」

 今年は15年にデビューしたYZF─R1がさらに進化、熟成した。オフシーズン恒例のセパンテスト(マレーシア)に登場した新車は、空力面や電子制御が改善され、よりモトGPマシンのYZR─M1に近い乗り味になったという。中須賀は鈴鹿テストでも確認作業を行い、手応えを深めている。

 今季はライバルの高橋巧がスーパーバイク世界選手権に行ってしまったため、中須賀の独壇場となるのではと見られている。だが本人は「野左根の成長も感じている。ホンダの水野も来るだろうし、もちろん清成も…。これまでのタイトルだって、簡単に取れたことなんて一度もない。ライバルがいたから、ここまで来れた。だから、今年も激しい戦いになると覚悟している」と気を引き締める。
 野左根が育成チームのヤマルーブからファクトリー入りしたのは2017年。この年は全日本JSBのほか、世界耐久選手権(EWC)にも武者修行に行き、世界に通用することを証明した。

 また同年は中須賀がリズムを崩したため念願の初勝利を挙げた。ただし中須賀と真っ向勝負での優勝ではなかったため、素直に喜べなかったという。そして、19年の第6戦岡山国際で水野涼(ホンダ)との激しいトップ争いを制して優勝を飾り、中須賀を3位に引き連れて表彰台の真ん中に立った。ついに実力で王者を下して納得の勝利。年間ランキングも自己ベストの3位となり、ひとつ壁を越えた。

 吉川監督は「確実な成長を感じているが、まだまだ。同世代の水野に対するライバル心を中須賀に向けることができれば、さらに成長できる」と期待。そのため、今年は思い切った改造を行った。これまで2人を分け隔てなくチーム編成を行ってきたが、今季は中須賀チーム、野左根チームとスタッフを分けることにした。チーム内のライバル意識を育てることで、さらなる成長を図る。オフのセパンテストは好タイムを連発した野左根が、どこまで躍進するか注目だ。

 「モト2開幕戦での長島(哲太)選手の優勝が、とても刺激になりました。同世代だし、戦うフィールドは違うけど、開幕から先制攻撃ができたらと思う」と「打倒中須賀」へ気合を込めた。
 ヤマハの若手育成チームとしてヤマルーブが動きだしたのは2015年だ。元ヤマハワークスライダーの難波が監督となり、ライダーの育成に乗り出した。野左根はこの第1期生。続いて、17年ST600チャンピオンになった前田恵助が18年にヤマルーブ入り。だが、前田はテストで両脚をけがしてシーズンを棒に振った。それでもチームは傷ついた前田を見捨てずに、けがからの回復を待った。19年に復帰した前田は根気よく丁寧にレースをこなし、本来の自分を取り戻していった。全レース中7レースでトップ10に入り、ランキング10位で終えた。

 まだ体調は完全とは言えないが、難波監督は「つらいリハビリでの日々の努力、トレーニングの成果を結果に結びつけ、ファクトリー勢に少しでも絡んでほしい。目標は数字ではなく、その成長を示せるかだ」とまな弟子の背中を押す。

 その前田は「恐怖心を乗り越えて強気でいく。ファクトリーに呼んでもらえるようなレースがしたい」と意気込む。トレードマークの人懐っこい笑顔が戻ってきた。さあ地獄を見た男が反撃開始だ。
 ◆新型YZF−R1/R1M ヤマハを代表するスーパースポーツで、4ストローク4気筒998ccエンジン。2015年式の8代目から、エンジン、シャシー、電子制御など各部が大きく進化した。デザインは従来モデルのイメージを踏襲している。エアロダイナミクスの効率を5%以上もアップし、APSG(スロットルバイワイヤ式の電子制御スロットル)や3モードのエンジンブレーキマネジメント、ローンチコントロールを搭載した。国内仕様は今秋発売予定。