カワサキ 強さと優しさにこだわった驚速マシン「NinjaZX-10RR」
ウィルレイズが全員集合(後列左2人目から)伊藤、柳川、井筒監督(いずれも竹内英士撮影)
ウィルレイズが全員集合(後列左2人目から)伊藤、柳川、井筒監督(いずれも竹内英士撮影)
 井筒仁康(49)が監督を務める「ウィルレイズレーシング RS─ITOH」は、昨年に引き続いて柳川明(48)をエースライダーとしてJSB1000に挑む。カワサキで鳴らしたベテラン2人がタッグを組んで全日本をかき回せるか注目だ。また、新設のST1000には伊藤和輝(19)を起用。井筒は「カワサキのトップチームを目指し、レース界の活性化に貢献したい」と目標を掲げている。
昨年の不振を糧に巻き返しを誓う柳川
昨年の不振を糧に巻き返しを誓う柳川
 カワサキワークスで活躍した井筒は、当時の全日本の最高峰スーパーバイククラスで2000年にチャンピオンを獲得した。一方、柳川はスーパーバイク世界選手権(WSB)のトップライダーとして活躍していた。2人はペアを組んで99〜01年に鈴鹿8耐に出場。圧倒的強さを誇ったホンダに戦いを挑み、トップ争いを繰り広げる姿がファンを魅了した。井筒は「自分のセッティングに文句も言わずに乗って、好タイムを記録して付き合ってくれた柳川にはとても感謝している。自分も柳川もライダーとして全身全霊で挑んだ鈴鹿8耐は、ライダー人生の中でも思い出深いもの」と述懐する。

 井筒は00年WSB日本ラウンドでダブルウインするなど活躍し、海外参戦を果たす。04年に念願の鈴鹿8耐で勝利、全日本JSB1000でもタイトルを得て、翌年はWGPへの道を模索する。しかし念願かなわず、「世界へ行けないなら走り続ける意味がない」とレース界を去った。

 だが、5年後の09年に電撃復帰。鈴鹿8耐にプライベートチームから参戦、2位表彰台に駆け上がって関係者を驚かせた。
 「レースで学んだことが大事だったと気づいた。恩返しできるなら」と再び走りだす決意をみなぎらせる。11年、不慮の事故で亡くなった高橋江紀さんの代役としてRS─ITOHから全日本に復帰。トップライダーの技量を示しながら若手ライダーを鼓舞し続け、14年には現在の「ウィルレイズレーシングRS─ITOH」を立ち上げた。

 18年から井筒は監督に専念。19年に柳川を起用して念願のJSB1000への参戦を開始する。「レースキャリア、人気と、トップレベルの柳川が加わってくれたことで、大きな一歩を踏み出すことができた」と井筒は感謝する。

 柳川はカワサキワークスのエースライダーとして20年にわたって活躍し続けた稀有(けう)なライダーだ。WSBに1997年から2001年までフル参戦、最高ランキング4位とトップライダーとして活躍した。帰国後は全日本で常にタイトル争いを繰り広げた。だが、16年はけがで後半戦を欠場、17年はスポット参戦となる。18年には後進の指導を担ったが、本人は「自分のライダー人生に引退はない」と生涯現役を明言していた。そんな柳川に井筒が声をかけた。

 「井筒監督がフル参戦のチャンスをくれたことがとにかくうれしかった。最高の環境で走れることに感謝しかない」と快諾してチームに加わる。「何もしていなければ体力は落ちるだけ。追い込んで言い訳できない状況にしたい」と柳川。ライダーとしてのレベルをキープするために、トレーニングにも熱を入れた。

 ところが、最新のワークスマシンに乗り続けてきた柳川にとって、市販キット車でのレースは戸惑いばかり。昨年は試行錯誤の1年となってランキングは17位。それでも井筒は「最低でも2年はかかる。JSB1000は、そんなに甘くない」と成績不振は想定内だったと受け流した。

 そして、今季は2年目の勝負の年。柳川は「昨年の後半にかけて自分自身もチームもマシンへの理解が進み、手応えを感じるまでになれた。今年は上位を狙いたい」と意気込む。井筒は「柳川の要望に応えられるような状況を作ることが監督の仕事。今季はチームとしてもレベルアップしていく」と決意も新ただ。柳川の本来の力を引き出すことが目標だと語る。
 井筒が掲げるもうひとつの柱が「若手育成」だ。昨年のシーズン途中から伊藤和輝を抜てき、チームに合流させた。伊藤はポケットバイクレースの大治郎カップ出身で、小学2年からポケバイに乗り始めた。小学6年にはミニバイクを開始、2013年には地方選手権のもてぎロードレース選手権のJGP3チャンピオンを獲得した。だが、高校進学時に「親の勧めで乗り始め、自分の意志で走っていると思えなくなった。やらされている感が強くなった」とレース界を一時離れた。

 バスケット部に所属して熱心に活動したが、高校3年に上がると「走りたい」という思いが急激に募ったという。今度は「自分の意志で真剣にレースに取り組む覚悟」を持って、知人のつてを頼って仙台市のチームで走り始め、19年に全日本第3戦SUGOのST600にスポット参戦。そこで予選、決勝ともに5位と、フル参戦組を抑え込む走りに注目が集まった。

 伊藤の元には複数のチームから誘いがかかったが、「井筒さんのチームなら、たくさんのことを学び成長できると思えた」とチーム入りを決めた。

 昨年の12月に行われた世界耐久選手権第2戦セパン8時間耐久には、井筒がライダーとして復帰し、柳川、伊藤の3人で挑んだ。23位でチェッカーを受けた雨のレースで伊藤は多くのことを学び、「自分に足りないものを教えられたレースになりました。柳川さん、井筒さんのすごさを感じて、このチームで走れることが幸運だと思いました。感謝を結果で示したい」と誓うことになる。

 井筒は「ST1000参戦を目指して、昨年の後半からJSB1000で経験を積んでもらった。未知数の部分ばかりだが、レースに取り組む姿勢は研究熱心で貪欲。ST1000は厳しい戦いになりそうだが、トップ争いを目指してほしい。いずれは、カワサキを代表するライダーに育ってほしい」と期待を込める。
 ◆Ninja ZX−10R KRT EDITION カワサキをWSB5連覇に導いたファクトリーマシンと同イメージのカラーリングを採用。強さと優しさを兼ね備えたこのモデルの特長は、扱いやすい上に速いこと。カワサキがWSBや鈴鹿8耐などの市販車をベースにしたレースにこだわるのは、誰が乗っても扱いやすく、そして速いモーターサイクルを送り出すためという。レース車両はNinja ZX−10RR。