エース・ライダーとMotoGP開発二足のわらじ
JSB1000クラス中須賀克行選手を直撃
自身のレースのほか、ヤマハのMotoGPマシンのテストという重責を担う中須賀(カメラ=稲岡悟)
自身のレースのほか、ヤマハのMotoGPマシンのテストという重責を担う中須賀(カメラ=稲岡悟)
 読者の皆さま、ごぶさたしました。休んでいた「V6エンジン」に再び火が入りました。バイクとグルメを極める長野博(39)がホストになって、今年もロードレースの世界を明るく照らします。今年最初のゲストは、全日本ロードレース選手権のヤマハのエースで、最高峰JSB1000クラスの元チャンピオンの中須賀克行選手(30)です。実はこの2人は初対面でしたが、たちまち意気投合。第1回から熱いトークの応酬になりました。

           ◇     ◇     ◇

 長野博 ずっと北九州に住まわれているんですか?

 中須賀克行 生まれてからずっと。結婚して今は家族と独立してますが、実家からは1分の距離。海の近くで魚が安くてうまい、いい所ですよ。レースをするのに最も適している環境と思えるので動いてないです。

 長野 袋井(静岡県)でのMotoGPマシンのテストへは?

 中須賀 飛行機のアクセスが悪いので新幹線で通ってます。

 長野 ところで中須賀さんはポケバイ出身ですよね?

 中須賀 3歳から12歳まで乗っていました。ライダーになることはおやじ(克次氏)の夢でした。そのおやじは8年前、43歳で亡くなりましたが、僕はレースで勝った時は表彰台で空を見上げて報告しています。

 長野 弟さんの父親代わりもされていると聞きました。

 中須賀 おやじは僕にレースをさせてくれて大学まで出してくれました。僕とすぐ下の弟・匡寿(29)はおやじとの思い出がたくさんあるけど、末っ子の皇輝(21)はあまりなくて…。だから、僕がおやじ代わりに学費くらいはと…。

 長野 なかなかできないことですね。中須賀さんは古き良き日本男児って感じがします。レース前はマシンにお塩をまいて、黄色の靴下を必ず履くと聞きました。

 中須賀 黄色がラッキーカラーだと信じているので、新品の靴下を履き、塩を振るのも決まった験担ぎです。そうやって気持ちを整えてます。

 長野 子供のころ、あこがれていたライダーは?

 中須賀 世界ではW・レイニー(ヤマハ)やK・シュワンツ(スズキ)、特にレイニーさんの半端じゃないバンク角にあこがれてました。日本だと僕の師匠の吉川和多留(ヤマハ)さん。

 長野 現在は中須賀さんがヤマハのエースライダーでもあり、MotoGPの開発もこなしているんですよね。

 中須賀 去年からやらせてもらえるようになりました。自分の仕事がMotoGPのヤマハの命運を背負っているんだと思うと責任も感じます。同時に誇りに思う気持ちも大きいですね。

 長野 MotoGPは排気量が1000ccに変更されますが、違いは大きいですか?

 中須賀 パワーをコントロールしやすいマシンにするように開発テストを重ねました。MotoGPは特別のマシンで、体重の増減でセッティングが変わります。僕はJ・ロレンソと同じ体重になるようにしています。幸い体形も似ているので、ツナギのサイズもほぼ一緒。ですが、セッティングは特殊。あれだけのバンク角ですから。あの倒し込みはGPの中でもピカイチだと思います。データではそんなスピードでは曲がれないと思っても、それをロレンソはやってしまうんですから超人です。
昨年、ロレンソの代役でMotoGPクラスに出場した当時を振り返った中須賀(カメラ=稲岡悟)
昨年、ロレンソの代役でMotoGPクラスに出場した当時を振り返った中須賀(カメラ=稲岡悟)
■突然のロレンソ代役出場で人気のすごさ体感

 長野 中須賀さんも、MotoGPで戦いたいでしょう。

 中須賀 夢ですね。彼らのすごさが分かるからこそ、そこに行けるように努力したい。あの緊張感の中、集中力を保って18戦を戦い終えたら、自分がどんなふうに成長するのか楽しみですね。

 長野 去年、MotoGPにロレンソの代役で出場しましたね。

 中須賀 突然の代役で、何の準備もなくマレーシアに飛びました。セパンはオフのテストでタイムも出ていたのですが、2度も転んでしまいました。浮足立って、結果を残せる状況ではなかった…。

 長野 プレッシャーが大きかった?

 中須賀 世界チャンピオンのロレンソとまったく同じ扱いだったんです。レセプションでもサーキットでも大歓迎でした。MotoGPライダーの地位の高さというか人気のすごさを思い知りました。ヒーローに祭り上げられたような気分、勝たなきゃいけないと思い込んで舞い上がっていました。

 長野 それで2度も…。

 中須賀 最初は「元気いいな」って感じだったんですが、さすがに2度目はスタッフも冷たくて、もう完全なアウェー。ピットでも小さくなっていました(笑)。

 長野 でも、バレンシアGPでは6位の躍進。

 中須賀 運が良かったのもありますが、うれしかったですね。

 長野 スタッフも喜んでくれました?

 中須賀 すごかったですね。喜び方が分かりやすいというか、盛り上がって拍手かっさい。ライダーとして、あれはテンションが上がりますね。全日本では勝って当然という立場だし、日本人は感情を表さないので、GPの盛り上がりは新鮮で、めちゃくちゃうれしかったです。

 長野 昨年は鈴鹿8時間耐久の予選で2番手になったことがきっかけで、カタール(11月の世界耐久選手権最終戦)にも出場しましたね。

 中須賀 耐久レースも盛り上がりますね。カタールでは転倒してあばらの骨が折れたけど、走れないとは言えなくて。バイクの切り返しが痛くてきつかったです。そして優勝候補チームとやりあって、また一緒に転んでしまった。その相手チームの監督がピットに怒鳴り込んできてどつかれました。びっくりしましたけど、海外の人はレースに対して熱い。だから、面白いというのがあるんだと思います。

■全日本タイトル王座奪回のシーズン

 長野 今年も海外へ?

 中須賀 耐久チームからフル参戦の要望をいただきましたが、あくまでも全日本のタイトルを取るのが目標。次にMotoGPの開発。なので、耐久は後半戦に参戦予定です。8耐は芳賀紀行さん(BSB)のチームメートのトミー・ヒルと一緒に走ります。

 長野 8耐はミシュランで、今年の全日本はダンロップからブリヂストンに変更。加賀山(就臣)君がその反対になり、2人に注目が集まりそうですね。

 中須賀 タイヤが替わるのは大きなことなので、きちんと力が出せるように頑張りたいと思っています。僕と加賀山さんに注目が集まるのも分かりますし、真っ向勝負して行きます。今年はチャンピオン奪回のシーズンにしたい。

 長野 期待しています。中須賀さんは全日本JSB1000のV2チャンピオンというトップライダーなのでどんどん前に出て来てほしいです。

 中須賀 ありがとうございます。また呼んでいただけるよう頑張ります。

 ▽中須賀克行(なかすが・かつゆき)1981年8月9日生まれの30歳。福岡県北九州市出身。3歳からポケバイに乗りロードレースへステップアップ。父親との二人三脚でプライベーターとして全日本250に参戦。その非凡な才能が認められ06年からヤマハ契約のエースライダーとなる。08、09年最高峰のJSB1000を連覇。11年はランク5位。代役参戦のMotoGPバレンシアでは6位に入り世界的な注目を集めた。今季はタイヤをブリヂストンに替えてタイトル奪回を目指す。