(第618回)
 レッドブルのセバスチャン・ベッテルがマレーシアGPでナレイン・カーティケヤンのHRTと接触した事故で、カーティケヤンを口汚くののしった。「あいつはガーキン(gherkin)野郎だ」と言ったそうな。ガーキンは小さな酢漬けのキュウリ。ピクルスのことだ。そこまで言わなくてもという気がするが、我慢ならなかったのかなあ。gherkinとcucumber(きゅうり)はちょっとニュアンスが違うが、英語にはcool as a cucumber=落ち着き払って、という使い方がある。カーティケヤンの方が落ち着いていたことは確かだ。

 同じスポーツをしている仲間を表だってバカにすることはあまり褒められたことじゃない。それもレースをしている最中の事故だ。カーティケヤンだってわざとぶつけたわけじゃないだろうから、その辺りはチャンピオンは冷静にならなきゃ。走ってる最中に中指立てたりするのはどうもいただけない。今はレース中全ての場面が録画されているわけで、あっという間にその画像は世界中にばらまかれる。レース中は興奮してそんなことを冷静に考える暇はないんだろうが、そういうときこそ「cool as a cucumber」だよ。

 ベッテルの中傷に対し、カーティケヤンも一発かましている。「自分がいいクルマに乗っているからって他のドライバーをバカにすることはないだろ」と。ここでカーティケヤンは「いいクルマに乗っているからって…」と言っている。「自分が速いからといって…」とは言っていない。大切なのはここだ。カーティケヤンが自分もベッテルと同じF1を戦っているドライバーだというプライドを持っているのだ。「僕だってレッドブルに乗ればおまえと同じぐらい走れる」と言いたいのだろう。その心意気がなければ、F1なんかでレースはできない。もちろん、ベッテルと同じようには走れないだろうけど。

 ベッテルもとんだところでケチがついたものだ。彼のこの行為(中指立て)とカーティケヤンをののしる言葉は、先輩や仲間内から非難されるに十分な愚行だったといえる。元F1ドライバーのマルク・スレールやハンス・シュトゥック、デビッド・クルサードからは厳しい言葉が飛んでいる。

 考えてみると、ベッテルはもうすぐ25歳。おまけに2年連続でチャンピオンに輝く素晴らしいドライバーだ。自分の言動がどれだけ影響を与えるか、よく考えた方がいいだろう。ベッテルの行為が国際自動車連盟(FIA)が定めた規範に反するかもしれないという声もあるが、もしFIAが調査するようなことになれば、ベッテルは大きな犠牲を払わなければならなくなる可能性もある。私はFIAはアクションを起こさないだろうと考えるが、まあこの一連の騒動からベッテルはいろいろ勉強したはずだ。

 これは余計なおせっかいかもしれないが、小林可夢偉との間で何か起こったら、ガーキン野郎と言っても通じないだろうから「おたんこなす」と言うように覚えておくように。(モータースポーツジャーナリスト)