ルマン24時間レース特集
車検を終えて勢ぞろいしたトヨタ・ガズー・レーシング。ドライバーは(左から)9号車のロペス、国本、ラピエール、8号車の一貴、1人置いてブエミ、デビッドソン、7号車のサラザン、可夢偉、コンウェイ(トヨタ提供)
車検を終えて勢ぞろいしたトヨタ・ガズー・レーシング。ドライバーは(左から)9号車のロペス、国本、ラピエール、8号車の一貴、1人置いてブエミ、デビッドソン、7号車のサラザン、可夢偉、コンウェイ(トヨタ提供)
 18年ぶりに3台体制を敷いて仏ルマン24時間レースに挑むトヨタ自動車の「トヨタ・ガズー・レーシング」は、3人の侍が日本車、日本人選手の初制覇に挑む。昨年あと一歩で勝利を逃した8号車の中嶋一貴(32)にスポットライトが当たるが、陣営に加わって2年となる7号車の小林可夢偉(30)、初挑戦で9号車に乗り込む国本雄資(26)も実力者。それぞれの思いを胸に秘め、快挙達成を狙う。

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国本「本当に楽しみ」

初めてのルマンに胸を躍らせる国本(トヨタ提供)
初めてのルマンに胸を躍らせる国本(トヨタ提供)
 初挑戦の国本も“3人の侍”としてルマンの頂点を狙う。

 「とてもワクワクしている。決勝に向けてやらなければならないことはたくさんあるが、本当に楽しみ」。まぶしいほどの初々しさだ。

 ルマンには兄・京佑が出場した2009年と15年に訪れ、「ここでレースがしたい」と強く願っていた。そこにチャンスが降って湧く。昨年末に3台目の出走を計画していたトヨタから候補としてテストに招かれ、オフシーズン中にオーディションとなるテストに参加した。実力が拮抗(きっこう)するライバルもいたが、最後は昨年のスーパーフォーミュラを初制覇した「速さ」で合格をもぎ取った。

 ただし、ルマンのLMP1車両の戦いは速さだけでは通用しない。少しでも燃費を稼ぎ、タイヤをいたわりながら安定したラップタイムを刻まなければならない。さらに複雑なハイブリッドシステムを効率的に使うため、独特なドライビングも要求される。

 「チームが僕のドライビングやチームメートのデータを解析してくれ、それを元にしっかり見直してきた。自信が持てるよう準備してきた」。デビュー戦だった5月の第2戦スパ大会の走行データを分析し、ルマン入りするまで独ケルンのチーム本拠地でドライブシミュレーター(疑似運転体験装置)を使ってみっちり練習してきた。

 SFの初王者に就いた昨年から一気に道が開けたが、それまでは苦しい時が続いた。10年に開幕10連勝を記録して全日本F3の王者を獲得し、翌11年にフォーミュラ・ニッポン(現SF)にステップアップしたが、どうしても結果が残せなかった。そして自分の意見を通す−という強い気持ちで挑んだ16年、ついに初優勝を飾って壁を突き破った。

 「日本代表として戦いたい。もちろん狙うのは優勝です」。国本の童顔が引き締まった。

可夢偉、自己管理を徹底

昨年の借りを返す決意の可夢偉(トヨタ提供)
昨年の借りを返す決意の可夢偉(トヨタ提供)
 感情をあまり出さない可夢偉だが、今年のルマンには人一倍強い思いを抱く。「やるしかない。準備は多分完璧。やるだけですよ」。トヨタの悲願を自らの手で勝ち取る覚悟を決めた。

 昨年は中嶋一貴がゴールまであと1周で止まり、「残り3分の悲劇」と広く報じられた。今年はその雪辱戦と位置付けられているが、可夢偉もまた2位に終わった自らの雪辱に挑む。

 一貴の失速でポルシェが棚ぼたの勝利を挙げたが、「自分たちがちゃんと後ろにつけていたら−」と悔やむ。レース中にLMGTE車両と接触し、その影響で3周も遅れたことが、バックアップという意味でトヨタの悲願達成を逃した要因だと心に刻んだ。

 「去年のWECで失敗したのはルマンだけ。きっと24時間レースの難しさが出たのだと思う。そんな部分はしっかり寝るとか、ペースのことをきっちりやろうと思う」。豪快な印象が強い可夢偉だが、実はミスが少ない繊細な部分を持つドライバー。今年は絶対にアクシデントに巻き込まれないという強い気持ちで、走行していない時にはしっかりと休養を取って次に備えるなど、さらなる自己管理を徹底するつもりだ。

 今季はトヨタのエースとして、十分過ぎる働きをしているが、結果には恵まれていない。WEC開幕戦では同僚がクラッシュして大きく遅れ、第2戦では圧倒的な速さを見せながら不運な展開に阻まれて2位。シーズンの中で最も華やかなルマンで鬱憤(うっぷん)を晴らしたいところだ。

 刺激もある。コース上で戦ったことはないが、日本人では数少ないF1で表彰台経験のある佐藤琢磨がインディ500(5月28日)を制覇した。「僕もインディに出て勝ちたいと思った。ルマンに勝ったら出られますかねぇ〜」とおどけるが目は真剣。まずは世界3大レースの日本人による連覇を狙う。

 「今年は大きなチャンス。全てを順調に、間違えのないように進めなければ−」。一つの間違いも許されない過酷な24時間の戦いが間もなく始まる。

「TS050」全て一新

ルマン名物の長い直線(ユノディエール)を走る可夢偉のトヨタ7号車(トヨタ提供)
ルマン名物の長い直線(ユノディエール)を走る可夢偉のトヨタ7号車(トヨタ提供)
 今年のトヨタTS050は全てを一新した。エンジンも主要構成部品にまで改良して熱効率を大幅に向上させ、ハイブリッドシステムもモーターやリチウムイオンバッテリーを小型軽量化し、効率を高めた。佐藤俊男チーム代表は「ルマンは最も重要なレース。東富士研究所(トヨタ自動車の研究機関)とTMG(独ケルンの前線基地)で周到な準備を重ねてきた。チーム一丸となって最後まで集中して戦う」。昨年味わった悔しさを晴らすため、最後の瞬間まで戦い抜く覚悟を決めた。

★J SPORTSのテレビ放送

 トヨタの快挙達成が期待される今年のルマン24時間は、スタートからゴールまでの完全生中継となった。現地時間午後3時(日本時間午後10時)のスタート前から事前情報を流し、ゴール後も1時間放送して表彰台の様子など激闘の余韻も楽しめる。