天王山第7戦
母国大会の富士で何としても勝利を挙げたいトヨタ陣営。手前がランキング2位の中嶋一貴組の8号車で、その後ろが小林可夢偉の7号車(トヨタ提供)
母国大会の富士で何としても勝利を挙げたいトヨタ陣営。手前がランキング2位の中嶋一貴組の8号車で、その後ろが小林可夢偉の7号車(トヨタ提供)
 世界耐久選手権(WEC)の第7戦「富士6時間耐久レース」が13日に富士スピードウェイで開幕する。ホームコースのトヨタ・ガズー・レーシングは必勝態勢だ。6月の第3戦ルマン24時間レースでは圧倒的な速さを見せながら、トラブルとアクシデントでまたも初勝利を逃した。今季限りでシリーズを去るポルシェが選手、メーカー部門のダブルタイトル王手で挑むだけに、絶対に負けられない。トヨタの8号車に乗る中嶋一貴(32)、7号車の小林可夢偉(31)とも母国でライバルを打ち破り、ルマンの屈辱を晴らしたい。

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 どうしても波に乗れない戦いが続くトヨタにとって、絶対に落としたくないのは母国で開かれる富士での1戦だ。

 「年に1度の日本でのレース。誇らしい戦いを日本のファンに見せたい」。ドライバーズ選手権で2位につける一貴は力を込めた。

 今年は開幕2連勝を飾る最高のスタートを切ったが、その後が続かなかった。大一番のルマン24時間レースではトラブルに見舞われて9周遅れの8位に沈んで勢いをなくし、その後は4、3、3位とポルシェの壁を崩せないでいる。ランキングは2位ながら、首位との差は51点まで開いてしまった。

 原因はダウンフォース(気流で押さえ付ける力)がより多く必要なコースでは、車両特性的にポルシェが有利な状況になってしまうからだ。トヨタのクルマ作りは基本的に、悲願のルマン24時間制覇が最優先。そのため少しでもスピードが伸びる車体形状となっており、強いダウンフォースが必要なコースは苦手になる傾向が強く、タイヤの使い方も含めてルマン以降の苦戦につながっている。

 ただし、そんな嫌な流れが変わる兆候がある。9月に開かれた前戦アメリカ大会では、敗れはしたもののあと一歩までライバルに迫った。「アメリカでは良いペースで走れた。富士では良いレースができるのではと期待。きっと十分な速さを見せられると思う」。1・5キロ近い長いストレートがある富士では本来の力も発揮しやすい。

 もともとトヨタと富士の相性は良い。WECは昨年までに5回開かれ、トヨタは4勝を挙げている。一貴も12、13年に神懸かり的な2連勝を飾っており、ポルシェの後塵(こうじん)を拝してきた鬱憤(うっぷん)を晴らす今季3勝目を挙げるには絶好の機会だ。

 昨年限りでシリーズを去ったアウディに続き、ポルシェもLMP1クラスの活動を今季限りで辞める。トヨタは来季以降も参戦を継続する方針のようだが、強力な自動車メーカーのライバルが不在となる可能性が高い。一貴も「ライバルメーカーとガチンコでやるレースを来年はできないと思う」と見据えている。

 だからこそ、ライバルを打ち破りたい。「ポルシェも辞めるからには勝って終わる−という気持ちもあるだろうが、それを上回るパフォーマンスを見せたい。富士は他のカテゴリーでも走っているので全てを知り尽くしている」。一貴が富士で躍動する。

可夢偉、必勝の決意

富士を制してポルシェに迫りたい一貴(トヨタ提供)
富士を制してポルシェに迫りたい一貴(トヨタ提供)
 可夢偉も富士にかける思いは強い。「そりゃ勝ちたい。それしかない。ルマンの雪辱だけは絶対にしないといけない」。必勝の決意をみなぎらせた。

 今年のルマン24時間ではポールポジションを獲得し、レースでもトップを走った。しかし、セーフティーカー導入中のピットアウト時に、他チーム選手の紛らわしい行為がきっかけで車両にダメージを負い、まさかのリタイア。言い知れぬ悔しさを味わった。

 可夢偉はシーズン開幕当初からトヨタの今季型車両「TS050HYBRID」を完全に手なずけ、他を圧倒する速さをみせた。ただし、同僚がクラッシュしたり、思わぬトラブルやアクシデントに巻き込まれて思うような結果を残せない戦いが続き、ルマンでの悲劇。完全に運から見放されている。

 一貴が乗る8号車がランキング2位につけているため、ここ数戦は最後に順位を明け渡すことが続いている。ポルシェが2号車にタイトルを取らせるため、1号車を完全にサポート役にしているため、トヨタもチームプレーをしなければ戦えない。富士でも展開次第では不本意なことが起きるかもしれない。

 だからといって、このままシーズンを終わりたくはない。昨年も勝った富士では、ここまでのもやもやを吹き飛ばす快走を見せたい。シーズン中盤に入って速さを増したポルシェにまだ分があるかもしれないが、「諦めずにやっていくしかない」。上向きつつあるクルマの進化を信じ、可夢偉が大駆けを狙う。



◆村田代表、最大限の努力

 今年8月にチームを率いる立場に就いた村田久武代表は、絶対に落とせない大事な1戦への決意を込める。「ルマン以後では富士6時間が最も重要なレース。勝利に向かってチーム一丸となって臨む」と言い切った。

 トヨタ自動車が所有する富士スピードウェイはまさにホームコース。さらに20キロほど離れた静岡県裾野市にはトヨタの東富士研究所がある。TS050の心臓部となるエンジンやハイブリッドシステムの開発も同研究所で行っており、部品などを製作する協力企業も含め、関わってきた多くの人々の目前で戦うことになる。いつも以上に力が入って当然だ。

 「富士では素晴らしい実績を残してきた。再び輝かしい成果を上げるため、最大限の努力を尽くす」。5戦4勝の得意な富士で、宿敵ポルシェを打ち負かす。

ポルシェの野望!敵地で王座防衛

ルマンで味わった悔しさを富士で晴らしたい可夢偉=手前(トヨタ提供)
ルマンで味わった悔しさを富士で晴らしたい可夢偉=手前(トヨタ提供)
バンバー(27)=ニュージーランド/ティモ・ベルンハルト(36)=ドイツ/ブレンドン・ハートリー(27)=ニュージーランド=が勝てば初タイトル、メーカー部門もワンツーでゴールすれば決まる状況だ。

 ポルシェのフリッツ・エンツィンガーLMP1担当副社長は大一番を前に「ダブルタイトルを決めるには、勝たなければならない。6時間のレースは予想することはできない」と慎重だ。ルマンをからくも制してからは、3戦連続ワンツーフィニッシュの快進撃。そんな勢いながら「富士の長いストレートはエンジンにチャレンジングで、トラフィック(コース上の混雑)は予想がつかない危険が潜む」とした。

 富士にはなハイダウンフォース(気流で押さえ付ける力が強い)仕様で挑むという。LMP1は2種類の空力パッケージが許され、ルマンで使うスピードが伸びるローダウンフォース(気流で押さえ付ける力が弱い)仕様もあるが、アンドレアス・ザイドル監督は「データ分析とシミュレーションでハイ仕様に決めたが、中程度になるように調整する」と安全策をとった。

 初タイトルに王手をかけたバンバーは「僕は日本の文化が大好き。富士で戦うのを楽しみにしている。恐らく厳しい週末になると思うが、全力を尽くしたい」と言い切る。トヨタとは激戦を予想するが、ルマンからの5連勝で決めたい。

 ポルシェは来季からLMP1から電動車の国際シリーズ、フォーミュラEに軸足を移す。有終を富士で飾りたい。


◆ロッテラー富士初Vへ 最後のチャンスに全力

 スーパーフォーミュラなど日本でも活躍するアンドレ・ロッテラー(35)=ドイツ=もWEC富士の初制覇を狙う。昨年まで在籍したアウディで勝てず、移籍したポルシェは今年限りでシリーズを去る。今年が最後のチャンスだ。

 「大好きなレースなんだけど、一度も勝ったことがない。最後かもしれないから全力を尽くす」

 2003年に来日し、御殿場市内に3年ほど暮らした経験があり、富士への思い入れも強い。WECでは2012年に王者を経験し、ルマン制覇も3度。それなのに「日本のファンはルマンや耐久のことをよく知っている。情熱がすごい」という一番身近なコースは未勝利なのだ。

 ポルシェは2号車がタイトルに王手をかけ、ロッテラーの1号車はサポート役。「どうなるか分からないが、1号車が勝てれば−」。最後のチャンスは逃さない。

J SPORTS、予選も中継!決勝も!!

2号車(手前)のタイトル奪取に1号車(後方)が全面バックアップするポルシェ陣営(ポルシェ提供)
2号車(手前)のタイトル奪取に1号車(後方)が全面バックアップするポルシェ陣営(ポルシェ提供)
 スポーツ専門チャンネルのJ SPORTSは今年もWEC富士大会の予選、決勝を生中継する。予選は14日午後1時45分からJ SPORTS4、決勝は15日午前10時30分から同3で。ドライバーの技量に加え、メーカーやチームの技術、そして戦略でも世界最高峰の戦いを完全フォローする。

イベント★アラカルト

 ★ミニサーキット イベント広場のP12で「トヨタ・ガズー・レーシング・パーク」が開かれ、歴代レース車両の展示や特設のミニサーキットでカートが楽しめる。CGパークでは13日から15日の3日間、車中泊が有料で可能。キャンピングカーや車中泊用具の展示や販売、ステージイベントも予定。

 ★国土交通大臣杯 今大会の日本人最上位選手に「国土交通大臣杯」が初めて贈られることになった。日本代表としてモータースポーツで活躍し、自動車文化振興に貢献したことをたたえるのが目的。

 ★国歌斉唱は野々村彩乃さん グリッドセレモニーで行われる国歌斉唱を、ソプラノ歌手の野々村彩乃さんが担当する。イベントステージでも美声を披露する予定。

 ★WEC初のサーキットサファリを実施 スーパーGTなど国内レースでは定番になっている、レース車両と一緒にバスでコースを走る「サーキットサファリ」が世界選手権で初めて行われる。

 ★松田がグリーンフラッグ 決勝レース直前のフォーメーションラップのスタートを告げる「グリーンフラッグマーシャル」をスーパーGTで活躍する松田次生が担当。

 ★K4−GPが走行 富士スピードウェイで開かれている軽自動車や軽自動車ベースのオリジナル車両で争うK4−GPがWECでデビューする。予選日の14日にパレードラン、決勝日の15日にエキシビションランを行う。往年の仏ルマン24時間に出場した車両のレプリカも登場予定。