2018年WGP開幕特集(1)
ホンダチームアジアに移籍したモト2の長島哲太。開幕前のテストも快調だ(ドルナスポーツ提供)
ホンダチームアジアに移籍したモト2の長島哲太。開幕前のテストも快調だ(ドルナスポーツ提供)
 オートバイのロードレース世界選手権(WGP)が16日、開幕する。第1戦は中東のカタールGP(18日決勝)。今季は最高峰クラスのモトGPにデビューするLCRホンダの中上貴晶(26)を筆頭に、6人の日本人選手が参戦する。下部クラスのモト2では長島哲太(25)=カレックス、モト3では鈴木竜生(20)=ホンダ、佐々木歩夢(17)=同、鳥羽海渡(17)=同、真崎一輝(17)=KTM=がエントリー。日の丸旋風を巻き起こす。 (ペン&カメラ=遠藤智)

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長島哲太、夢へのチャレンジ

中上の後釜

佐々木歩夢は参戦2年目。チャンピオン争いをしたい(ペトロナス・スプリンタ・レーシング提供)
佐々木歩夢は参戦2年目。チャンピオン争いをしたい(ペトロナス・スプリンタ・レーシング提供)
 モト2に復帰して2年目。長島哲太はビッグチャンス到来に闘志をかき立てている。モトGPへと巣立った中上貴晶の後釜としてホンダチームアジアに移籍。新たな決意で新シーズンを迎えた。

 「自分のライダー人生の中で、今年は最も大きなターニングポイントとなる。チャンスを生かすことができれば、子供のころからの夢だったモトGPへの夢が開ける。でも、ダメだったら自分の将来はない」。スペインに本拠を置く「ストップアンドゴーレーシング」から移籍。昨季はシリーズ26位と振るわず、決勝最上位も10位でシングルフィニッシュがゼロだっただけに雪辱を期したいところだ。

 冬季テストでは昨季と同じカレックス製のマシンに乗るも、足回りがWPサスペンション製からオーリンズ製に替わったことで、予想以上にてこずっている。スペインのバレンシアとヘレスで開かれた合同テストでも中位グループから抜け出せなかった。

 その理由は分かっている。コーナー手前のブレーキングと、その直後の旋回時のサスペンションの動きが自身のライディングスタイルとかみ合わないのだ。「長くWPを使ってきたので慣れるのに時間がかかっている。オーリンズの方が動きは安定している。早く自分のものにしたい」。自らに言い聞かせている。

 平常心が必要だ。昨年はシングルフィニッシュできたレースをコースアウトや転倒で何度も落とした。いずれも成績が伴わないことが焦りにつながり、ミスを招いた。2014年にモト2クラスにレギュラー参戦した時も気合が空回り。イギリスGPで他車の巻き添えとなり、継続参戦を断念する大けがを負った。「自分の力を発揮するために、しっかりバイクのセットアップ(調整)を進めたい」とした。

 新天地も申し分ない。ホンダチームアジアは元250cc世界王者でホンダのテストライダーも務める青山博一を新監督に迎え、体制は昨季以上に充実している。「今年はホンダから大きなチャンスをもらえた。素晴らしい体制で戦える。プレッシャーはあるが、それを力に変えたい。当面の目標はシングルフィニッシュ。次は表彰台獲得」と開幕戦へ向けて気合を入れた。

 今年は勝負のシーズン。ライダー人生最大のチャレンジに注目だ。

 ▼長島哲太(ながしま・てつた) 1992(平成4)年7月2日生まれ、神奈川県出身。2011年に全日本ロードレース選手権のGP−MONOクラスでタイトル獲得。13年の日本GPにモト2クラスでWGPデビュー。14年にレギュラー参戦するもイギリスGPで大けがを負い、一時戦列を離脱。昨季からフル参戦で復帰。決勝最上位10位でランク26位。

モト3佐々木、「やるべきことはわかってきた」

開幕前の合同テストで走り込んだ鳥羽海渡。ヘルメットはカラーリングされていない(ドルナスポーツ提供)
開幕前の合同テストで走り込んだ鳥羽海渡。ヘルメットはカラーリングされていない(ドルナスポーツ提供)
 新しい扉を自らの手でこじ開ける。モト3の佐々木歩夢は昨季の反省材料を糧に大ブレークを狙う。

 「昨年はトップグループに付いていくので精いっぱい。終盤の勝負どころで余裕がなかった。自分としてはもっと行けると思ったが、終わってみたらシングルフィニッシュが2回。甘かった」

 1年目の昨季は新人賞にあたる「ルーキー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたが、不本意なシーズンだった。決勝最上位はオーストラリアGPの7位でシリーズ20位。好成績を残すには、10台以上が争うトップグループでやり合える体力を養うことが必要と判断。シーズンオフは徹底的に肉体面を強化した。

 筋力と持久力をつけるため、ホンダ系選手を預かる鎌田貴トレーナーの指導を受けた。自宅がある神奈川県横須賀市から横浜市内まで毎日通い、ジムで猛トレーニング。1月下旬には2週間にわたってグアムで合宿を張って体を磨いた。その成果については「必ず生きるはずだ」と自ら期待している。

 所属先は昨年と同様、ホンダがサポートする「ペトロナス・スプリンタ・レーシング」。ホンダチームアジアと並んでモト3クラスではアジアを代表するチームだ。運営はマレーシアGPを開催するセパン・インターナショナル・サーキット。今年は同国の石油会社「ペトロナス」がメインスポンサーに就いた。

 マレーシアチームに所属しているメリットは開幕前のテストで早くも生かされた。今年に入ってスペインのバレンシア、ヘレスで公式テストが実施されたが、ともに天候が悪く、十分な走行ができなかった。しかし、佐々木のチームはセパンでも3日間にわたってプライベートテストを実施。「結果的にセパンでテストできたことが本当に良かった。徹底的に走り込めた」と振り返った。

 モト3に進む前は育成シリーズの「アジアタレントカップ」(2015年)と「モトGPルーキーズカップ」(16年)をともに制覇。走るセンスはグランプリのトップレベルにある。「ライディングだけなら負けているところはない。でも、レースに勝つにはそれだけじゃダメだと学んだ。今年はモト3クラス2年目なので言い訳はなし」と気合満点だ。

 最終目標のモトGPクラスには駆け足で上がっていきたいところ。足踏みするつもりはない。

 ▼佐々木歩夢(ささき・あゆむ) 2000(平成12)年10月4日生まれ、神奈川県出身。15年アジアタレントカップでタイトル獲得。モトGPルーキーズカップは同年にランク3位で16年にシリーズ王者。同年のマレーシアGPでモト3クラスでWGPデビュー。昨季は決勝最上位が7位でランク20位。飲料大手レッドブルの契約選手でもある。
モト3参戦4年目となる鈴木竜生。今季こそ初表彰台(ドルナスポーツ提供)
モト3参戦4年目となる鈴木竜生。今季こそ初表彰台(ドルナスポーツ提供)
◆モト3鳥羽、全てのレースでシングルフィニッシュを!

 昨季の雪辱だ。モト3で2年目を迎える鳥羽海渡は気持ちをリセットして新シーズンに挑む。

 「もちろん初表彰台、初優勝を目標にするが、今年は全てのレースでシングルフィニッシュしたい。それができればチャンピオン争いも見えてくるはず」

 2014年のアジアタレントカップ初代王者。16年にはレプソル国際選手権(旧スペイン選手権)で日本人初優勝を果たすなど、モト3ではデビューシーズンから活躍を期待された。が、昨季は上位争いすらできず、ランク30位。大不振の1年だった。

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 頼れる“師”がいる。所属するホンダチームアジアの新指揮官となった青山博一監督だ。育成カテゴリー時代に指導を受けており、冬季テストから自身も復調ムードに転じた。「青山さんはアジアのころから僕の走りを見てくれている。的確なアドバイスをしてくれる」と心が躍るという。

 自身の持ち味は思い切りの良さ。攻めすぎることで転倒も多かったことから冬季テストでは長所を生かすために、ベースのセッティングを出すことに集中した。「一発のタイムが出ないのでリザルトだけを見ている人たちから『調子が悪いのか』と聞かれるが、内容は悪くない。調子は戻っているが、まだまだミスが多くて…」。上り調子にあることを強調した。

 ルーキー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた佐々木歩夢、昨年のルーキーズカップ王者で急きょ参戦が決まった真崎一輝とは同い年。ライバル心をかき立てられる。まずは存在感のある走りをグランプリで見せる。

 ▼鳥羽海渡(とば・かいと) 2000(平成12)年4月7日生まれ、福岡県出身。13年に全日本ロードレース選手権JGP3でランク13位。14年にアジアタレントカップで初代王者を獲得。レプソル国際選手権などを経て昨季モト3でWGPデビュー。決勝最上位は10位でランク30位。

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◆モト3鈴木、やるべきことはやってきた

 4年目のシーズンを迎える鈴木竜生が冬季テストで今季の活躍を印象付けた。今年3度目の公式テストとなるスペイン・ヘレスで常にシングルにつける走りで存在感をアピールした。

 「もう4年目。モト3でやるべきことはやってきた。あとは結果を残すだけ。悔いのないシーズンにして、来年はモト2へステップアップしたい」

 昨年が転機となった。それまではパフォーマンスで劣るインドメーカーのマヒンドラで2年間苦労した。が、イタリアの「SIC58」に移籍して念願だったチャンピオンマシンのホンダNSF250RWで参戦。日本GPの4位を最高位に6度のシングルフィニッシュを果たした。

 「勝てるバイクに乗ったことで、自分に足りないものがはっきりと分かった」。ライバルに比べて劣ること−。それはメンタル面だ。昨年はレース中にトップグループを形成する常連となるも最後で相手にかわされてしまうことが多かった。「どこかで引いている自分がいた。強い選手とバトルしたときに一歩も引かない自信が自分には欠けていた」と自己分析した。

 一皮むけるにはきっかけが必要。まずは1度も立ったことがない初表彰台を獲得することだ。「それが実現できれば、自分は変われると思うし、違うレース展開が見えてくる。チャンピオン争いも現実になってくる」とみている。

 マヒンドラ時代は無理な走りをして転倒。けがにつながった。そこで昨年から柔軟性を高めるストレッチ系のトレーニングに多くの時間を割いた。その結果、1度も大きなけがをすることなく、フルシーズンを戦うことができた。このオフも同じメニューのトレーニングを継続中。「転んでもけがをしないことがチャンピオンになる条件」と豪語した。

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 鈴木は全日本ロードレース選手権の出場経験がない。日本の地方選手権からいきなりスペイン選手権(現レプソル国際選手権)に挑戦。向こうで実績をつくって、グランプリの切符を手に入れた異色の存在だ。

 開幕戦カタールGPの目標は「ベストリザルト」。初表彰台獲得に向けて全力を尽くす。

 ▼鈴木竜生(すずき・たつき) 1997(平成9)年9月24日生まれ、千葉県出身。2015年にマヒンドラのマシンでモト3にデビュー。16年までランク28、27位と振るわなかったが、昨季からホンダ系のSIC58に移籍。日本GPで自己ベストの4位をマークし、ランク14位。

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◆飛び込み参戦のモト3真崎、常に100%で!

 昨年のルーキーズカップ王者の真崎一輝が飛び込みでモト3にフル参戦する。スペインチームのRBAボエへの加入が決まったのは1月下旬のことだ。所属先が使うマシンはKTM。自身は育成カテゴリーからホンダのサポートを受けており、断腸の思いで選手契約を結んだ。

 「ホンダを離れることになるのですごく悩んだ。でも、グランプリに参戦するチャンスなので決断した」。同チームに所属していたシリーズ11位のフアンフラン・ゲバラ(スペイン)が22歳の若さで引退を決めたことから後釜としてお鉢が回ってきた。巡ってきたチャンスに賭けた。

 昨年の最終戦バレンシアGPではワイルドカード(推薦枠)で出場。同レースでは日本人最上位となる10位でフィニッシュした。モト3クラス2年目となる佐々木歩夢と鳥羽海渡とは同い年。1年後れを取ったものの、「あの2人と同じクラスで戦えることがうれしい」と猛攻勢の構えだ。

 スタートからゴールまで常に100%で攻めるのが身上。他の日本人選手にとっても目が離せない存在だ。お互いに刺激し合い、日本人の実力を世に示す。

 ▼真崎一輝(まさき・かずき) 2000(平成12)年8月22日生まれ。福岡県出身。15年に全日本ロードレース選手権JGP3クラスでランク2位。16年はアジアタレントカップで同7位、レプソル国際選手権は同10位。昨季はモトGPルーキーズカップで2勝してチャンピオン。最終戦バレンシアGPでモト3デビューし、10位入賞。

モトGPレギュラー参戦の中上、熱い走りで世界を驚かせる!

今年に入ってモト3へのフル参戦が決まった真崎一輝(ドルナスポーツ提供)
今年に入ってモト3へのフル参戦が決まった真崎一輝(ドルナスポーツ提供)
 中上貴晶が最高峰クラスのシートをつかんだ。日本人がモトGPにレギュラー参戦するのは2014年の青山博一(ひろし)以来4年ぶりだ。

 元125cc選手のルーチョ・チェッキネロ氏(イタリア)がオーナーを務めるチームLCRからの参戦で「期待と責任の大きさを改めて感じる。全力を出し切る」と熱い思いだ。

 シリーズ王者のマルク・マルケス(スペイン)らと同じホンダレーシング(HRC)の契約で、モト2時代から中上を支援してきた石油精製会社の出光興産も継続サポートする。日本人のモトGP勝利は2004年の玉田誠が最後。14年ぶりの快挙を目指す。

 ※中上の話題は15日付のモトGP特集でたっぷりと掲載します。

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 ▼ロードレース世界選手権 国際モーターサイクリズム連盟が主催する2輪レースの最高峰カテゴリー。1949年にスタート。現在はエンジン排気量別にモトGP、モト2、モト3の3クラスに分かれる。今季は全19戦。サーキットを走る世界選手権では別開催のスーパーバイク世界選手権、スーパースポーツ世界選手権、世界耐久選手権がある。

 ▼モトGP 最大排気量1000ccの4ストロークエンジン(4気筒以下)のマシンを使用。ホンダ、ヤマハ、スズキ、ドゥカティ、アプリリア、KTMの6メーカーで争われる。タイヤはミシュラン製。前身は500ccクラス。

 ▼モト2 エンジンはホンダ製の4ストローク直列4気筒600ccのワンメーク。車体はカレックス、スッター、KTM、日本のNTSなどが製作。タイヤはダンロップ製。来季からエンジンは英メーカーのトライアンフに切り替わる。旧250ccクラス。

 ▼モト3 4ストローク単気筒250ccエンジンを使用。今季はホンダ、KTMの2メーカーが車両を供給。昨季まではマヒンドラ、プジョーも参戦した。参戦できるのは16〜28歳。タイヤはダンロップ製。旧125ccクラス。
日本人として4年ぶりにモトGPにレギュラー参戦する中上貴晶
日本人として4年ぶりにモトGPにレギュラー参戦する中上貴晶