’96第9戦イギリスGP編
鈴鹿以来の表彰台に立つ健闘をみせたノリック
鈴鹿以来の表彰台に立つ健闘をみせたノリック
 日本GPの初優勝から3カ月、6戦ぶりに阿部典史が表彰台に立った。今季自己最高の6番グリッドからのスタート。決勝では序盤で7番手に順位を落とすも、グイグイと追い上げて3位でゴールした。走るごとに実力を身に着けているノリックにとって、苦手のドニントンの表彰台獲得は大きい。残り6戦、終盤戦での大活躍の突破口となることは確実だ。
 この前のドイツGPで予選3列目に並んだ時に、いや〜超〜久しふりだなって思ったけれど、今回は2列目。開幕戦マレーシアGP以来の2列目スタートだったから、グリッドに付いた時は懐かしい気分だった。前がよく見えるし、これなら絶対にいける、スタートさえ失敗しなければ優勝も夢じゃないって思っていた。

 予想していた展開は、スタートが技群にうまいバロス(4番手)がホールショットを取る。それにドゥーハンが続いて、その後ろに僕がつく。1コーナーは3番手で通過。その後はドゥーハンの後ろについていくというのが僕の作戦だった。

 ところが、スタートしてみたら前いるのはクリヴィーレにジュニア(ケニー・ロバーツJr)、バイルとバロスで、1コーナーを抜けた時は5番手。すぐにドゥーハンに抜かれて岡田さんにも抜かれる。あれれって感じで7番手に下がってしまった。

 まずいなって思ったけれど、タイヤのグリップが悪くてペースを上げることはできなかった。作戦通りに走るために、僕は軟らかいコンパウンドのタイヤを選んでいた。ソフトコンパウンドは終盤がきつい。でも序盤の遅れがこれまでもレース結果に大きく影響していたし、とにかくドゥーハンに遅れないようにと思っての選択だった。しかし、結果は裏目に出た。逆に、硬めのコンパウンドを選んだカピロッシの方がどんどんペースを上げていく。あれれっ、一体どうなってるんだって思っていた。

 それでタイヤが温まるまでの2周はがまんして、それから全力全開で行った。最初に抜こうと思ったバイルが目の前で転んで6位。ジュニアを抜いて5位。岡田さんを抜いて4位。バロスを抜いて3位と快調だった。2位のクリヴィーレにも追い付いていった。よ〜し、次はクリヴィーレだって思っていたら、後半は向こうの方が速くて少しずつ離されてしまった。

 僕のペースは後半の方が速かった。ベストラップも終盤に出たくらいだから、悔しいけど仕方がないって感じだった。それよりも、3位になってから、岡田さんとラッセルが激しくプッシュしてきた。サインボードで、ああすぐ後ろにいるなって思っていたけど、抜かれてたまるかって思いながら走っていたんだ。
 
 後ろは一度も振り向かなかった。それでいったんは岡田さんとの差を1秒5まで広げたのに、最後はまたすぐ後ろにいる。最終ラップにすごいスライドがあって、ああヤバイって思ったけれど、最後まで抜かれずにゴールすることができた。
 
 後ろにピタリとつかれて最終ラップを迎えると、おしりや背中がムズムズする感じなんだけれど、今回は絶対に抜かれるもんかって思っていたし、余裕もなかったからムズムズすることもなかった。
 
 結局、優勝したドゥーハンからは9秒も遅れて、クリヴィーレからは6秒。3位はうれしかったけれど、離されすぎたのは残念だった。
 
 でも、プーチに負けて4位になった超〜悔しいフランスGPとは大違い。今度は3位になって表彰台に立ってシャンパンファイトもした。シャンパンも、ミックはびんを受け取るとすぐに振り始めてシュパーって抜く。毎回のように表彰台に立っているからすごく慣れている。それに比べて僕は、シャンパンのびんが重くてなかなか振れない。レースでも負けて、シャンパンファイトで負けて、ああまだまだ修業が足りない、経験が足りないなって思った。
 
 今回、一番喜んでくれたのはマネジャーのタッドだった。今回のレースが最後でアメリカに帰る。奥さんに子どもができたからなんだけれど、レース前は「最後だから勝ってくれよ」って言われていた。僕もそのつもりだったけれど結果は3位。それでもタッドは「こんなにいいレースを見せてくれてありがとう」ってすごく喜んでくれた。だから、最後のレースの記念にヘルメットをプレゼントしたんだ。
 
 僕のマシンを担当しているメカニックのハワードも超〜喜んでくれた。ハワードはドニントンが地元で、知り合いがたくさんレースを見に来ていた。そこで僕が表彰台に立ったから、我がことのように喜んでくれたんだ。
 
 レースが終わった後は、ノッティンガムの街にあるジャパニーズレストランにすしを食べに行った。本当はチームのディナーがあって、それに出なければいけなかった。3位になっているし、みんなも出てほしかったと思う。でも、やっぱりすしの魅力には勝てなかった。みなさんごめんなさいって感じだった。
 
 それにしても、グランプリの中で一番嫌いなドニントンで3位になれたのはうれしい。2年前はたったの3周。去年は大クラッシュにコースアウトといやな思い出ばっかりだったけれど、これでドニントンが好きになった。結果良ければすべて良しって感じ。次のオーストリアGPも、今回のようなレースにしたいと思っている。

■1996年7月24日掲載