第2戦マレーシアGP編
予選7番手から好スタートを切ったノリック。しかし、7周目に無念のリタイアを喫した=写真はイギリスGPのもの(カメラ=野間智)
予選7番手から好スタートを切ったノリック。しかし、7周目に無念のリタイアを喫した=写真はイギリスGPのもの(カメラ=野間智)
 予選7番手から好スタートを切った阿部典史。1周目4番手。2周目にはM・ビアッジ、M・ドゥーハンとトップ集団を形成して順調な序盤戦を展開した。しかし、7周目のバックストレートでエンジントラブルが発生して無念のリタイア。表彰台確実のレースを2戦連続で逃したノリックは、その悔しさをコースサイドの看板にぶつけるしかなかった。
 7周目の1コーナーを立ち上がってストレートを駆け抜けるところまでは、とにかく順調だった。朝のウオームアップを終えた時に、これなら予選と同じ1分29秒台のレースができるなって思っていた。このペースなら優勝争いに加われる。これ以上速ければ無理かなって感じだったけど、ビアッジとドゥーハンは30秒台の走り。なんだ、このペースなら楽勝だなって思っていたんだ。

 ところが、6速全開のストレートが終わるころに、エンジンの調子が悪くなった。あれって感じで早めにブレーキをかけて左高速コーナーで2速シフトダウン。次の左コーナーまで少しだけ加速してさらに2速落とすんだけど、そこで完全にエンジンが止まってしまったんだ。

 レース中にエンジンが止まってしまうなんて今まで一度もなかったし、ホント、ついてないなって感じだった。でも、仕方がないからコースを外れてバイクを止めることにした。ところが砂が深くてガードレールのところまでたどり着けなくて、そこでバイクを降りることになったんだ。

 
 悔しくて、もう、どうしようもなかった。気が付いたら、その悔しさをコースサイドの看板にぶつけていた。ところが、後でテレビを見ると、止まる直前のシーンがちょっとだけしか映ってなくて、バッチリ映っていたのは、看板をバシバシたたいているところだけ……。

 月曜日に日本に帰ってきてテレビを見たら、NHKの解説者もテレビ大阪の解説者も、「ああブレーキミスですね」って感じで話していて、超〜がっかり。テレビ大阪の解説をしていた伊藤真一さんも「ブレーキミス?」って言っていたし、ああ、せめて伊藤さんだけには分かってほしかったなって、すごく悲しい気持ちだったんだ。

 しかも、あの瞬間の映像はピットのモニターにも流れていなくて、僕が看板をたたいているところだけが映っていたみたい。そのせいで、オフィシャルのバイクでピットに帰ってきたときに、みんなの視線が妙に冷たかった。だれも何も言わないし、どうしてなんだって思っているところに、マレーシアに応援に来ていたおやじが「フロントからか?」って聞いてきて冷たい視線の理由が分かった。それだけに、「えっ、なに言ってんだよ」って感じで、無性に腹が立ってしまったんだ。

 そうか、きっと、鈴鹿と同じようにコースアウトして転んだんだって……。だから、「そうじゃない。エンジンが止まったんだ」って僕も怒ってしまった。するとみんなビックリしていたけど、それだけに、あんなに孤独感を感じたこともなかった。

 でも、理由が分かってみれば、逆にみんなが慰めてくれた。担当のエンジニアも「申し訳なかった」って謝ってくれた。一瞬、気まずいムードになってしまったけれど、それだけ期待されているんだなってあらためて感じたし、自分の態度もいけなかったかなって反省している。

 それもこれも、中途半端なカメラの映像でみんなが誤解することになってしまった。でも、これだけは言っておきたいけど、自分のミスで転んでいたとしても、鈴鹿もそうだったけど、バイクが走れる状態だったら絶対に僕は再スタートしている。走れないから、余計につらかったんだ。

 でも、レースではドゥーハンが勝ってくれて安心したし、良かったなあと思った。鈴鹿のビアッジの速さにはホント度肝を抜かれた。でもマレーシアではそうでもないと思ったし、こんなもんかって思った。

 今回はマールボロが冠スポンサーで、レース前にいろんなイベントがあった。木曜日の夜なんて、僕の泊まっているパンパシフィックホテルから近くのショッピングセンターまで力車に乗ってパレードをした。先頭に花を持っている女性が4、5人。一番後ろで太鼓をドンドンたたいて、まあにぎやかなこと。パレードが終わってからの会見にはマールボロライダー7人が参加したんだけど、鈴鹿で優勝しているビアッジが主役。僕たちは完全なわき役だった。レースの結果がそうなんだから仕方がないけど、いつまでも主役にはさせておかないゾって気分だったんだ。

 今度こそ勝てる。そう信じている。気持ちも体も手ごたえがあるから自然と緊張してしまう。鈴鹿もマレーシアも予選が始まってから全然眠れなかった。ついにマレーシでは睡眠薬のお世話になってしまったけれど、そのうち、優勝した喜びが睡眠薬になるようなレースがしたい。

 それにしても、ジョホールは暑かった。こんなに暑いのは初めての経験だった。その暑さでアスファルトがボロボロとはげて飛んで来る。体に当たると痛いし、痣(あざ)になってるところもあった。2周目の1コーナーの立ち上がりで難波(恭司)さんが転んだのもビックリした。真後ろにいて、それを避けたドゥーハンはすごいと思った。何もかもが初めての経験だったけど、優勝したドゥーハンのペースがこんなに遅いと思ったのも初めてだったし、今度こそ絶対に……と思っている。

■1998年4月22日掲載