第6戦マドリードGP編
8カ月ぶりの表彰台に立って、元気を取り戻したノリック。やはり結果が一番の薬だ。中は優勝のチェカ、右は3位のジベルノー(カメラ=竹内秀信)
8カ月ぶりの表彰台に立って、元気を取り戻したノリック。やはり結果が一番の薬だ。中は優勝のチェカ、右は3位のジベルノー(カメラ=竹内秀信)
 阿部典史が波乱の中で今季初の表彰台を獲得した。予選は8番手。好スタートから序盤は3番手につけたが、中盤は5番手にポジションを落とす。そしてズルズル引き離され、今季初表彰台の期待はいったんは遠のくのだが、今回のノリックは違った。逆に巻き返して上位に進出、終盤はC・チェカとの優勝争いに持ち込んだ。最後は0・2秒及ばず2位に終わったものの、復活をアピールする会心のレースとなった。
 今回のレースは何から話していいのか分からない。言いたいことがたくさんあって困ってしまう。成績の悪い時は何をどう思い出しても“悔しい”ばっかりだけど、今回は優勝できなかったことだけが悔しいだけで、あとは自分の思い通りになったレースかなって思った。

 開幕戦から表彰台に立てそうで立てないというツキのないレースばっかりが続いていた。マドリードGPの行われたハラマも小さいコーナーが続いていて、僕にとっては大の苦手なサーキットだった。それは5月のテストの時点でも分かっていたことだけど、ヤマハのバイクには向いているサーキットで、今回の2位は、ホント、バイクに助けられた2位。それだけに、勝てなかったのは本当に残念だった。

 スタートは2列目だったけど、バッチリ決まって3番手。チェカ、クリヴィーレの後ろにつけることができた。序盤はペースが速くて1分33秒台。この日は気温が高かったけれど、僕はみんなよりも軟らかいソフトコンパウンドをチョイスしていた。それは予選からこのタイヤでいくんだって決めていたからなんだけど、そのために序盤が終わるころにはタイヤが滑り始めて、やっぱり失敗かなってちょっぴり後悔した。

 でも、滑り出しても、このペースを維持できることは予選の段階で分かっていたし、ルカ(カダローラ)に抜かれ、宣篤さんとセテ(ジベルノー)に抜かれても、焦りはなかった。このまま走りきれるわけがないし、絶対にペースが落ちてくる。ガマン、ガマンだと思っていたら、予想通りみんなのペースが落ちてきた。よ〜し、これからだと気合が入って、グングンと差が縮まってトップ集団にまた追いつくことができたんだ。

 後ろから見ているとみんなつらそうにしている。セテを抜いて、次は宣篤さんだと思ったら、目の前でビッグスライドで遅れていく。次はルカを抜くぞと思ったらスローダウン。だれにも何の邪魔もされずにチェカに追いついてしまった。そうなると、脳裏を横切ったのは、スタート前に聞いた「今日のレースでホンダが勝ったら21連勝で新記録樹立」っていう話だった。それなら絶対にチェカを抜いてやるゾって、超〜気合が入ったんだ。

 チェカは抜かれないようなライン取りをしていたが何度も失敗して、抜くチャンスはあった。勝負は最終ラップだと思っていたら、最終ラップだけチェカは一度もミスをせず、ついに抜けないままゴールすることになったんだ。

 勝てなかったのは悔しいけど、でも、2位になれたのはうれしかった。去年の最終戦(豪州GP)以来、8カ月ぶり。長かったような気持ちもするし、でも、表彰台に立ってみれば、日本GPとマレーシアGPでも立てたレースだったから、そうでもないかなって思ったんだ。

 今回は本当にいろんな出来事があった。予選初日には、僕が今年でクビになるって記事が外国の新聞に載った。自分が手を抜いて走っているのなら仕方がないけど、いつもどこでだって全力で走っている、ただ結果がついてこないだけなのに、チクショウ! って思った。だから、今回の結果には満足している。それにハラマは、すごい観客だった。スタートして2周目ぐらいまでは、コースに紙吹雪みたいのが舞っている。コース上の至る所で爆発している爆竹の破片だと思うんだけど、それがキラキラして気になった。盛り上がりもすごくて、僕が勝ってしまったら何が起きるか分からないような気もした。

 でも、ずっと応援してくれている人たちが本当に喜んでくれた。チームのスタッフ、ヤマハのスタッフ、そして……。ここでは書き切れないけど、本当にたくさんの人が喜んでくれて、僕もうれしかった。次は絶対に、次が無理だったらその次に、絶対に勝ってやろうと思った。日本から甘納豆を差し入れてくれたTさん。おいしかったです。クビになるっていう根も葉もない記事を見て、「チームメートのルカのことも、ヤマハのことも、成績のことも、すべて忘れろ。自分の走りをすることだけ考えろ」ってスタート前にアドバイスしてくれたMさん。あれで気持ちが楽になったし、ありがとうございました。

■1998年6月17日掲載