新チームで勝利挙げ夢のモトGPへ
悩んで決断、チームアジア移籍
長野と久々の対談を果たした中上。今季の戦いの秘話が次から次へと飛び出した(カメラ=石井裕之)
長野と久々の対談を果たした中上。今季の戦いの秘話が次から次へと飛び出した(カメラ=石井裕之)
 ごぶさたしました。人気グループV6の長野博(41)がホストを務めて好評を博した「V6エンジン」が久々に登場です。ゲストは今季のロードレース世界選手権(WGP)のモト2クラスで大活躍した中上貴晶(21)。レース通の長野が待ちかねていた相手だけに対談は大盛り上がり。再来年に最高峰のモトGPに挑戦しようという中上の青写真も聞き出すことに成功した。

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 長野 今年はポールポジション(PP)が3回、表彰台が3位1回、2位4回と大活躍でしたね。

 中上 ありがとうございます。昨年に比べれば少しはレベルアップしたかなと思います。でも優勝できませんでした。ランキングは8位ですが、獲得ポイントが低い。トラブルや自分の転倒もあって、ノーポイントのレースが5戦もあった。これは致命的で、反省することも多いので…。

 長野 満足はしていないですよね?

 中上 今年は優勝を狙える体制で参戦できて、チャンスもありましたし、精いっぱい挑みました。でも、優勝を狙える走りではなかった。だから満足はできないです。

 長野 何が足りなかったんでしょうか?

 中上 メンタル面の強さやトップ争いの経験かなと思っています。優勝を経験しているライダーは遅いと思わせておいて、後半にペースを上げる。コーナーのアプローチも、最後だけ違うところを攻めてきたりする。チャンピオンになったP・エスパルガロやS・レディングには特にそのへんのうまさを感じました。

 長野 でも彼らと戦って駆け引きや、仕掛けるタイミングなど学べた部分も大きいのではないですか?

 中上 はい。昨年までは、一生懸命走って、ついていくだけで精いっぱい。最後は引き離されて終わりでしたが、今年は自分なりに、いろいろなことを試せるようになりました。序盤逃げるレースしかできなかったのが、仕掛けるのを待ったり、逃げるタイミングを見たりと、レースの主導権を握る走りが少しはできたと思います。

 長野 開幕戦は表彰台に上がる活躍。4戦目にはポールポジションを獲得しましたね。

 中上 開幕戦からPP争いができて、最後の最後に逆転されて2番手が2戦続いて、取れそうで取れなくて、ものすごく悔しい思いをしていたんです。まずはPPを狙っていたので、フランスで取れた時はうれしかった。PPを取ると時計がもらえるんです。あの時計がものすごく欲しかった。

 長野 でもプレゼントしてしまって、自分では持っていないと聞きましたが。

 中上 フランスは(ハルクプロの)本田重樹監督、チェコはL・パンセラ・マネジャーで、イギリスは父にプレゼントしました。だから僕は持っていないんです。時計の裏に開催国と日時の刻印が入っているんです。世界で一つしかないもの。特別ですよね。自分も欲しいので、来年も頑張ります。

 長野 今年は初めての手術も経験したんですよね。

 中上 オランダの決勝のウオームアップで、つまらないミスをしてしまい鎖骨を折りました。骨折は初めてだったので、手術はものすごく嫌で、薬や注射でなんとかならないかと…。でも、手術をしてプレートを入れれば復帰できると聞き、それなら手術しようと…。かなり怖かったんですが手術したら、すぐに痛みが消えて…。

 長野 手術して良かった?

 中上 はい。そう思いました(笑)。

 長野 インディアナポリスで自己最高位の2位に入り、そこから快進撃でしたね。

 中上 前半から逃げようとする走りではなくて後半追い上げの、これまでとは違う走りができたレースでした。チェコも先行するライダーの走りを見ながら、自分の出方を考えました。

 長野 イギリスGPは激しい争いを制しての2位でしたし。

 中上 僕はバトルに弱いと言われていて、混戦になると埋もれてはい上がることができなかったんです。でも、ここでは2位争いを制しての2位でした。負けていたら4位だったレースを2位で終われたのはうれしかった。勝てなかったのは悔しいけど、競り負けなかったのは自信になりました。今季で一番力を出し切れたと充実感が残ったレースでした。

 長野 サンマリノは優勝の期待が高まりましたけど…

 中上 僕自身も勝ちを意識したレースでした。80%から90%の力で走り、焦りもなく冷静で、アクセルワークも走りも前半と後半で変え、レースの主導権を握る走りができていたと思うんです。でも、僕以上にエスパルガロがペースを上げてきた。後半ファステストラップを出す走りで逆転され2位。ものすごく勝ちたかったし、大事なレースだと思っていたので、悔しいレースになりました。

 長野 サンマリノ(ミサノサーキット)は富沢祥也さんが事故死された場所で、彼のためにも勝ちたいという思いが伝わってきました。レース後は事故現場で手を合わせる姿が印象に残っています。

 中上 勝ちたかったですね。

 長野 富沢さんとは幼なじみですもんね。

 中上 そうですね。子どものころから一緒にレースをしてきましたから…。やっと勝てるところまで来られたから、祥也のためにも勝ちたかった。

 長野 富沢さんが勝ったカタールのレースは素晴らしかったですね。今も覚えています。

 中上 僕はあの時、GPのシートをなくして全日本に戻っていた時だったんです。祥也の優勝を見て、早くGPに戻りたいと強く思いました。
体にプレートを入れて良かったという中上(カメラ=石井裕之)
体にプレートを入れて良かったという中上(カメラ=石井裕之)
 長野 そしてアラゴンから最終戦までは一転して厳しいレースになりましたが、その原因は?

 中上 マレーシアで2日連続で転倒してしまい、バイクにダメージがあったようで…。どこが悪いのか分からないけど攻められない。コーナー進入のフロントが決まらず、ハンドルのフィーリングが違う。ハンドル、ステム、フレームと細かい部品を見直して組んでくれたんですが解決できなかった。日本GPではフレーム交換までしましたが、セッティングを詰め切れませんでした。攻めると転びそうになって…。終盤戦はつらいレースになってしまいました。

 長野 でもGPから日本にいったん戻り、再び世界に出たライダーはいないでしょう。それだけでも中上君の力を感じます。

 中上 あきらめずに頑張るしかないと思っていました。代役参戦で出た11年の日本GPに全てを懸けました。その走りを認めてもらえたんです。

 長野 そこで出会ったイタルトランス・レーシング・チームは居心地がいいと聞いています。

 中上 本当にかわいがってもらっています。オーナーの自宅に住まわせてもらって、チームも最高なんです。何の不満もないですね。

 長野 そこを離れて来季はチームアジアへ。

 中上 いいチームなので、このまま来季もと思っていました。実際、契約もしていたので離れることは悩みましたが…。

 長野 モトGPへのチャンスがあることが移籍の理由ですか?

 中上 モトGPに乗ることは、レースを始めたころからの夢ですし、そのチャンスが確実にあることが大きかった。チームの人たちも理解してくれました。イタルトランスのオーナーは来季も住まいはそのままでいいと言ってくれていて、チームは変わりますが、生活の拠点は変わらない。とてもありがたいです。

 長野 チームアジアの印象は?

 中上 岡田(忠之)監督(46)は尊敬するライダーの先輩ですし、年齢的には父と変わらないので頼りにしています。スタッフは日本人が多いですが、外国人スタッフも出入りするので会話は英語ですね。なので、海外チームにいる感覚とあまり変わらないという印象です。勝てる体制をつくるために、動いてくれているので心強いです。

 長野 来季は今年以上の活躍を期待しています。

 中上 優勝の報告ができるように、これまで以上に頑張ります。応援してください。
再来年は最高峰のモトGP挑戦も視野に(カメラ=石井裕之)
再来年は最高峰のモトGP挑戦も視野に(カメラ=石井裕之)
 ▽中上貴晶(なかがみ・たかあき)
 1992(平成4)年2月9日生まれ、21歳。千葉市出身。4歳(96年)からポケバイに乗り、04年ロードレースを開始。06年、全日本ロードGP125で6戦を全勝し、史上最年少(14歳)でタイトルを獲得。08、09年WGP125cc参戦。10年全日本ST600参戦。11年JGP2チャンピオン。12年からWGPに復帰し、モト2ランク15位。今年は4戦連続2位などで同ランク8位。14年からチームアジアに移籍して3年目のモト2を戦う。
エスパルガロ(右)、ラバット(左)ら強豪と競り合った中上(カメラ=遠藤智)
エスパルガロ(右)、ラバット(左)ら強豪と競り合った中上(カメラ=遠藤智)