最終回・第98回
ヨーロッパ大陸の南西端に位置するサグレスの街の遠景。沢木耕太郎さんの「深夜特急」の終着点となったこの町は、ポルトガルGPが行われていた時代は毎年のように訪れていた。ポルトガルの海沿いは、写真のように切り立った崖になっているところが多く、とても印象深い
ヨーロッパ大陸の南西端に位置するサグレスの街の遠景。沢木耕太郎さんの「深夜特急」の終着点となったこの町は、ポルトガルGPが行われていた時代は毎年のように訪れていた。ポルトガルの海沿いは、写真のように切り立った崖になっているところが多く、とても印象深い
 スペインのヘレスからポルトガルのエストリルへと移動してきた。いま、日本との9時間という時差に苦しんでいる。

 朝、起きた時にはすでに日本は夕方。それから打ち合わせをして原稿を書くのだが、あっという間に締め切りの時間が迫ってくる。ヨーロッパのサマータイムの7時間時差が体にしみ込んでいる僕にとって、冬時間(標準時間)の8時間時差もペースが狂うけれど、9時間になると、もうしっちゃかめっちゃかである。

 それにしてもポルトガルはいつからクリニッジ標準時(GMT)に戻ってしまったのだろう。一度ヨーロッパ大陸と同じ時間になったはずなのに・・・。それを知らなかったものだから、ヘレスで選手たちに大笑いされてしまった。

 「ヘレスからマドリード。で、リスボンへ行くんだけど飛行機だとたった10分なんだよね」。マドリードとリスボンの距離は500kmくらい。そう言いながら自分でもおかしいなあと思っていたのだが、あまりにも真剣な顔で言うものだから、聞いている者は、いつもの冗談と受け流していたらしい。が、冗談じゃないということが分かった途端、「えんどーさん、マジで言ってんですか」と、爆笑の渦だった。
ヨーロッパ大陸最西端のロカ岬。エストリルからクルマで約1時間。ここも切り立った崖になっている
ヨーロッパ大陸最西端のロカ岬。エストリルからクルマで約1時間。ここも切り立った崖になっている
 それにしても、懐かしい気持ちでいっぱいになっている。エストリルは、セナとプロストがチャンピオン争いを演じていた90年が最後だから、ここに来るのは10年ぶりになる。何もかもがすっかり様変わりしていて月日の流れを痛感している。それ以上にヨーロッパ大陸の西の外れに来たということが、いろんなことを考えさせてくれるのだ。

 昨年、最終戦アルゼンチンGPで行ったパタゴニアでも同じような気持ちを味わった。そんなメールをアメリカにいる天野雅彦さんに書いたら、こんな返事が来た。「もうこれ以上、どこにも行けないという気持ちなんじゃないんですか」。

 それを読んだ時、僕の大好きな本の一冊、沢木耕太郎さんの「深夜特急」の終点がなぜポルトガルの南の外れにあるサグレスという街だったのかが、何となく分かったような気がしたのだ。

 もう、どこにも行けない・・・。「GPロード、国境を越えて」の最終回にふさわしい場所に、いま、自分はいるんだなあと思ったのだ。

 それにしてもあっという間の2年間だった。「GPロード/国境を越えて」を読んていただいた読者の皆さんには、心から「オブリガード」と言いたい。それにしてもオブリガードは、「ありがとう」という言葉によく似ているなあとつくづく思うのである。(おわり)

■2000年2月25日掲載
数年前に訪れたときに撮影したサグレスの夕陽。この後、灯台が夕陽の中にすっぽりと収まった写真は、とっておきの一枚になった。そして、このホテルはサグレスの港を見下ろす高台にあって、サグレスを訪れたときはこのホテルに泊まることにしている。この街で海をみながら沢木さんの深夜特急を読む、というのは最高の時間である
数年前に訪れたときに撮影したサグレスの夕陽。この後、灯台が夕陽の中にすっぽりと収まった写真は、とっておきの一枚になった。そして、このホテルはサグレスの港を見下ろす高台にあって、サグレスを訪れたときはこのホテルに泊まることにしている。この街で海をみながら沢木さんの深夜特急を読む、というのは最高の時間である


 ポルトガルは1966〜76年、92年〜96年に中央ヨーロッパ時間を採用したが、実情に合わず、イギリスと同じ西ヨーロッパ時間に戻した。緯度から言えば、フランスやスペインの大部分も、イギリス、ポルトガルと同じ西ヨーロッパ時間の方が実情に合っているような気がする。

 海を越えたところで時差が発生するのは良くあることだが、スペインとポルトガルは、国境を越えると1時間の時差が生まれる。現在はスペインもポルトガルもシェンゲン協定加盟国なので、クルマを停めることなく国境を通過することになるのだが、その後、時計の針を進めたり戻したりしなければならないのは、とても不思議な感じになる。

 「GPロード/国境を越えて」は、1998年4月から2000年2月まで2年間に渡ってトーチュウに掲載されたが、週2回ペースで復刻しているので1年で最終回を迎えた。あっという間に完走してしまったという感じだ。次の復刻事業は、1990年から97年始めまで掲載された「GPサーカス」である。その復刻に向けて、現在、準備を進めている。これも中日新聞本社のKさんの協力がなければ実現しないプロジェクトになっているが、「タビビトノキ」「GPロード/国境を越えて」、そして「GPサーカス」と時間を遡る復刻作業は、まさに、スペインとポルトガルを行ったり来たりしている感覚でもある。

 とはいえ、20年以上も時間が経過している連載コラムなので、復刻作業はこれまでより困難を極めそうな気がする。「【復刻】GPサーカス」の開始時期はまだ未定だが、忘れかけている記憶を掘り起こしながら、引き続き、頑張っていこうと思っている。そして最後に、「【復刻】GPロード/国境を越えて」を読んでいただき、ありがとうございました。