ダイブの真っ最中。恐怖か歓喜か――。こんなノリックの顔、見たことない。東京スカイダイビングクラブの大塩幸宏代表とともに急降下=埼玉県比企郡川島町で(カメラ=間曽憲治)
ダイブの真っ最中。恐怖か歓喜か――。こんなノリックの顔、見たことない。東京スカイダイビングクラブの大塩幸宏代表とともに急降下=埼玉県比企郡川島町で(カメラ=間曽憲治)
「ノリック、五輪へスカイダイブ〜年男が4000m上空からごあいさつ」

 年男が99年へ大ジャンプ。!! 世界ロードレース選手権(WGP)で活躍するノリックこと阿部典史(23)が初めてスカイダイビングに挑戦した。高度4000メートルから時速200kmで地上へ真っ逆さま。レースでは時速300kmの500ccマシンを操るノリックも、さすがに恐怖で顔がゆがんだ。それでも、決意表明としては最高のパフォーマンス。今季の500ccクラス優勝に加え、ノリックにはもうひとつでっかい夢がある。2000年のシドニー五輪出場だ。ロードレースが公開競技になる可能性が出てきたため、大空でオリンピック出場祈願とあいなった。
ダイブの瞬間。本当に真下に飛び降りるという感じ
ダイブの瞬間。本当に真下に飛び降りるという感じ
 高度4000メートル。目もくらむような高さから、ノリックが決死の表情で飛行機から飛び降りた。

 「直前まで全然怖くなかったのに、いざ飛び出そうとしたら急に怖くなった。でも、もうどうしようもないし、なるようになれって」と破れかぶれの心境で空へダイブ。一緒に飛んだインストラクターが高度調整をしてくれたが、降下速度は200km。それでも恐怖心は一瞬に吹き飛び、ノリックは未知の体験を満喫した。

 今年は24歳になる年男のノリック。チームも変わって心機一転。何かスカッとしたことをやりたくて空を飛んだのだという。目指すは、96年の日本GP以来の優勝、さらに日本人初の500ccチャンピオン。世界のトップライダーとしてWGPを戦うノリックは、フル参戦5年目となる今年を「数値目標は置かない。ただ無心で全力を尽くすのみ」と、勝負の年と位置づけている。そして驚きの大目標、ロードレースでのシドニー五輪出場という抱負がノリックの口から飛び出した。
見事は編隊飛行を見せる東京スカイダイビングクラブのメンバー
見事は編隊飛行を見せる東京スカイダイビングクラブのメンバー
 昨年、WGPを統括する国際モーターサイクリスト連盟(FIM)の国際オリンピック委員会(I0C)加盟が認められ、20世紀最後の夏季オリンピックの公開競技に、オートバイのレースが候補として挙がっている。現状では、FIMの主催するロードレース、モトクロス、トライアルの中のどれが公開競技になるか未定だが、純粋にスピードを競うロードレースが有力との声もあり、シドニーには96年までWGPを開催していたイースタンクリークというサーキットもある。

 それだけに、日本を代表するライダーの一人としてノリックは五輪出場を決意、真っ先に立候補を表明することになった。その覚悟をスカイダイビングでアピール――。

 「グランプリは年に15戦前後の戦いでチャンピオンを決める。これがオリンピックになれば4年に1回しかないし、一発勝負。もしロードレースが採用されたら絶対に出て金メダルを取るゾ」

 ノリックのビッグな新年の誓いが、晴れ渡った青空に響き渡った。(遠藤智)
ようやく着地。「パラシュートが開いてスピードが落ちてからのほうが怖かった」とは、さすが最速の男
ようやく着地。「パラシュートが開いてスピードが落ちてからのほうが怖かった」とは、さすが最速の男