静岡県・大仁町の城山南壁でロッククライミングにチャレンジしたノリック(カメラ=田丸瑞穂)
静岡県・大仁町の城山南壁でロッククライミングにチャレンジしたノリック(カメラ=田丸瑞穂)
「頂上へ! 今年こそ世界制覇だ!」

 一昨年暮れはスカイダイビングを決行、ファンや関係者の度肝を抜いてくれたノリックこと阿部典史がまたまたやってくれました。昨年暮れ、静岡県大仁町の城山南壁で初めてのロッククライミングに挑戦、約200mの垂直の岩肌で目標の地点を見事にクリアした。WGPフル参戦6年目となる今季は日本人初の500チャンプ獲得へ背水の陣。その思いを込めてのアタック、寒風吹きすさぶ中、岩肌に取り付いたノリックは世界制覇の執念を漂わせていた。
 聞こえてくるのは自分の激しい息遣いだけ。1歩、また1歩。垂直の岩肌を必死になってよじ登っていくその姿が、2000年にかけるノリックの意気込みをはっきりと表していた。身をたくすのは、50mの登山ロープ1本だけ。ほんの少しだけひっかかる岩のくぼみに手と足の指先をはわせ、こん身の力を込めて、体を持ち上げていく。頼りになるのはサポートしてくれる相棒と、あとは自分の体力だけだ。

 「ロッククライミングは前からやってみたかったんです。で、いざやってみたらすごくハードだし、チームワークという点で、レースと同じ世界だということが分かりました」とノリック。初めてトライした岩壁への挑戦を、興奮気味にそう振り返った。

 この日、ノリックをサポートしてくれたのは、日本山岳会で、将来を期待される若手の佐野友康さん。8000m級の山を経験しているプロだが、地上に下り立てばノリックファンの一人だ。

 「阿部さんはレーシングスーツで登ったんですが、これはすごく難しい。さらに、登山服でもトライしたけど、そのうまさにはびっくりしましたね」と佐野氏、ノリックの体力とバランス感覚に驚きの表情をみせた。

 約100m登った地点に、ロッククライミングでもっとも難しいオーバーハングがあり、登頂はその直前で終えることになったが、目標地点はクリア。「すごくいい経験でした。最後は完全に体が動かなくなった。頂上を極めようと思ったら持久力だけではなく、ペースや周りの状況を把握しながらの判断力などが要求される。これもまたレースに通じるものですよね」とノリック。今季こそ、と狙うタイトルへの“極意”をつかみとった? のか、さわやかな笑頗だ。

 そして“本職”WGP500のチーム体制もばっちり。「今年もスペインのアンテナ3で戦いますが、去年に比べたら、格段に体制が強化される予定。マシンも2000年モデルになりますからね」。ニューマシンの投入が決まり、さらに気力充実。開幕戦から一気にスパートをかけられる状況なのだ。

 テストは2月上旬にスペインで始まるが、「テストでどれだけマシンを決められるかがカギ。昨年の暮れのテストでもかなり手ごたえがあったしね」とやる気満々。昨シーズン終盤戦の2戦連続表彰台の勢いを今年につなげる自信に満ちあふれている。

 元日は恒例になっている上野アメ横の神社に参拝。引いたおみくじは「秘密です」というが、その顔にはノリスマイル。「何勝したいなんていうことは、この数年、あまり考えなくなったんです。とにかく毎戦表彰台に立てるように頑張りたい、というところでしょうかね」

 6シーズン目を迎えたノリックの、その意気やよし。岩壁に染みついたノリックのあの苦しい息遣いが、今季末、歓喜の雄たけびに変わるのは聞違いなさそうだ。(遠藤智)