ロールスロイス初のBEV「スペクター」(同社提供)
ロールスロイス初のBEV「スペクター」(同社提供)
 ロールスロイスが間もなく発売するバッテリー方式の電気自動車(BEV)「スペクター」のプロトタイプに、南アフリカで試乗しました。2030年までに全モデルの電動化を掲げた同社にとって、初めてのBEVになります。

 常に完璧な製品作りを目指すロールスロイスは、初めてのBEVに対して250万キロメートルものテスト走行を実施し、今はその熟成に努めている真っ最中です。その一環として南アフリカで行われたテストに合流し、プロトタイプの感触を確かめる機会に恵まれました。

 実際に運転してみると、スペクターはあらゆる面でロールスロイスらしいクルマでした。静かで快適なことは、これまでとまったく同じ。大きなボディーを意のままに操れる正確な操縦性、さらに言えばクルマが動きだす瞬間の「ヌルッ」とした感触も、これまでと何ら変わりません。

 そうした思想はデザイン面にも貫かれ、電動車らしさをむやみに強調した部分は皆無。同社のトルステン・ミュラー・エトヴェシュ最高経営責任者(CEO)は「顧客が『ロールスロイスらしい電動車』の誕生を願った結果である」と語っていました。

 もう一つ興味深いのが、スペクターはBEVであるにもかかわらず、その11ページにおよぶプレスキットの中に「環境」という文字が一度も現れていなかった点です。試乗会の会場でも、同社首脳陣らは「ロールスロイスであることが第一で、BEVであることは二の次です」という言葉を何度も繰り返しました。つまり、電動化は同社らしい超高級車を作るための手段であって、目的ではないというわけです。

 同社の技術陣を率いるミヒアル・アヨウビさんは「今後10年程度はBEVがもっとも現実的な動力源ですが、それ以降は燃料電池のように別のものが有力となるかもしれません」と説明。ロールスロイスの未来が、BEVだけに限定されているわけではないことに言及しました。

 その後、BMWが試作した燃料電池車(FCEV)に試乗するイベントにも参加しました。ロールスロイスの親会社に当たるBMWは「今後はBEVが主流になるだろうが、目的に応じてFCEVも活用した方が、社会全体で見たときのインフラ負担は軽減される」と見据え、BEV一本化に疑問を呈しました。筆者も全くの同意見。多様性が残されることを強く期待しています。 (自動車ライター)