世界耐久選手権(EWC)最終戦、鈴鹿8時間耐久ロードレースの中止が発表されました。当初は、真夏の祭典鈴鹿8耐が、初冬の11月に延期され、気温や路面温度の変化がどう戦いに影響するのか、マシンセッティングの方向性も、タイヤ選択も、全てが新たな戦いになること。海外からライダーたちが来られるのか、来られない場合は、どんな戦いになるのだろうと、7月に鈴鹿サーキットで行われた鈴鹿8耐テスト走行の際にも、マスクをしてソーシャルディスタンスを保ちながらも噂話が盛り上がっていました。

 夏の気温は年々上昇し、ライダーにかかる負荷が大きくなっている中で、期せずして初冬にずらして開催されることは、新たな可能性を探ることになるかもしれず、それはそれで興味深いと思っていました。また、今年はヤマハファクトリーの参戦がなく、中須賀克行が走らないことが発表されており、ファンにとっては何ともやるせない事態になっていたので、もし海外選手が参加できないなら、いっそ地方選の鈴鹿8耐として開催されると中須賀登場もありえるのか?、などと話題は尽きませんでした。昔を知る関係者は「海外ライダー勢が来なくても盛り上がれるはず。本来の8耐に近い、祭りの雰囲気を楽しめるかもしれない」と歓迎する声もあり、この世界的なパンデミックの中で、鈴鹿8耐がどんなふうに変化するのか見極めるのは、とても興味深かったのです。
 HRCは、高橋巧がテストに参加予定でしたが、ケガの回復状況から大事をとって、ハルクプロの水野涼が参加。高橋もピットでその状況を見守っていました。耐久仕様のマシンながら、水野はトップタイムをマークし、非凡さを示します。

 ヤマハファクトリーは、耐久テストというよりは全日本のテストに向けての走行で、野左根航汰が中須賀克行に肉薄する走りを見せていました。ケーヒンホンダの清成龍一や渡辺一馬の走りも注目を集め、全日本フル参戦をしないヨシムラは、鈴鹿8耐に集中すると語り、渡辺一樹が調子を上げていました。
 世界耐久選手権にフルエントリーしているTSRには、秋吉耕佑、高橋裕紀が助っ人として参加。本来ならジョシュ・フックが参加予定でしたが、参戦しているEバイクとスケジュールが重なり、そちらを優先して良いという藤井正和監督の親心もあり、秋吉と高橋に白羽の矢が立ちました。藤井監督は「マシンが新型CBRになり、スプリントレースとは違うルマン24時間耐久で走り切り、パフォーマンスを示すためには確認が必要。そのためのテストをしっかりやろうとしている。もちろん、その先には鈴鹿8耐のタイトル決定戦でチャンピオンを取りたいという思いがある」と語っていました。

 秋吉は過去、TSRから参戦して鈴鹿8耐勝利を飾っている実績もあり、藤井監督の呼びかけにすぐ駆けつけてくれました。高橋は今季から手島雄介監督のチームに移籍していましたが、手島はTSRで育ち、鈴鹿8耐で表彰台にも上ったライダー、藤井監督から「高橋にTSRへ参加してほしい」と伝えられると、すぐにOKの返事。藤井監督は「これまでの付き合いがあったからできたこと」と感謝していました。もし海外勢が参加できない状況でも、俊足を誇る秋吉、世界ロードレース選手権で活躍した実績を持つ高橋をライダー候補として考えているとしたら…。藤井監督の戦略に注目が集っていました。しかし残念ながら、鈴鹿8耐中止で戦略の先を見ることはできなくなってしまいましたが、8月29日〜30日にルマン24時間耐久が開催されます。そこに向け、TSRの面々は走り始めています。
 EWC開幕戦は、昨年の9月21日〜22日のフランス、ボルドール24時間耐久でした。強い雷雨に見舞われたことから、レース開始から3時間経過した午後6時に一時中断、再開後もF.C.C. TSRホンダ・フランスにエンジントラブルが発生し、それによってこぼれたオイルにYART ヤマハ、Webike SRC カワサキ・フランスが、が気付かず乗り上げ、バイクから出火。優勝候補の3台がリタイアするという波乱のレースによる幕開けでした。このレースで優勝したのは、スズキ・エンデューランス・レーシング・チーム。

 続く第2戦は初開催となったマレーシア、セパン8時間耐久。ここではYART ヤマハが優勝。TSRは現在ランキング12位。鈴鹿8耐や9月開催予定だったボルドール24時間が中止となり、最終戦はポルトガル、エストリス12時間耐久になったことが発表されています。タイトル獲得に挑むTSRにとって、大量ポイントを獲得できるルマンの戦いは重要です。
 さらに藤井監督は「24時間を走り、ルマンを制覇し、ホンダはすごいぞ、ナンバー1のマシンだということを示したい」と語っていました。新型CBR1000RR−Rが、耐久という過酷な現場で磨かれ、ポテンシャルを示すためにも、この挑戦の価値は大きいのだと思います。貴重なデータを蓄積するという意味においても重要な挑戦。すでにパーツ開発ではTSRが先行し、それを全日本を戦うチームが使用し戦い始めています。この状況下でアジアのチームとして海外参戦する困難は大きいものですが、海外スタッフでチームを構成、フランス在住の藤井監督は、そのハンデを乗り越え、戦いを挑みます。

 ルマン24時間のスタート時間も、通常の15:00(日本時間:同日22:00)スタートから初の試みとなる正午12時(日本時間:同日19:00)スタートに変更。歴史あるルマン24時間は、新型コロナウイルスの世界的流行により、1978年以来、初めての無観客開催で始まります。日本から熱いエールを込め、ぜひTSRの戦いを見守ってほしいなと思います。