佐藤洋美撮影
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 新型コロナウイルスの影響で不安定な中ですが、モータースポーツは安全対策を万全に、シーズンインを迎えています。今季、モトEに初の日本人ライダーとして参戦する大久保光も、5月には開幕を迎えます。

 「モトE」は、電動バイクのチャンピオンシップ。2019年から開催され、イタリアの電動バイクメーカー「Energica Motor Company」が供給する「Ego Corsa(エゴ・コルサ)」という電動レーサーによって争われています。タイヤもミシュランのワンメークで、マシンとタイヤともに、ワンメーカーによって供給されています。ここが、今年の大久保の挑戦の場です。
チーム提供
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 大久保はまだ小さな頃、鈴鹿8時間耐久ロードレースを「ウルトラマンレーシング」の応援のために観戦し、初めてスーパーバイクを見て、その爆音やその存在感が、強く印象に残ったそうです。この体験が原点となって、他の多くのライダーはロードレース世界選手権(WGP)を目指しますが、大久保は「最初からスーパーバイク世界選手権(WSB)が憧れでした。芳賀紀行さんや、加賀山就臣さん、藤原克昭さんなど日本人ライダーが活躍するのを見て、いつかWSBライダーになりたいと思っていた」と言います。

 2003年、大久保は加藤大治郎さんが始めた大治郎カップの初代チャンピンとなり、その後は、青山兄弟(博一、周平)や高橋兄弟(裕紀、江紀)を育てた桶川スポーツランドで腕を磨き、2010年には全日本125チャンピオンに輝くというエリートコースを歩み始めます。

 ですが、思うようなステップアップは続きません。2012年にはホンダが始めたアジアドリームカップに活路を見出そうと参戦、初代チャンピオンにもなりますが、翌2013年は参戦チームが見つからず、19歳で自らチームを結成し、全日本JGP3に参戦、ランキング3位、その後2015年にはST600に挑戦し、こちらでもランキング3位と奮闘を見せます。ですが、プライベートの苦悩は続きました。そんな大久保に手を差し伸べたのは、幼馴染でライバルでもある長島哲太。自身を支援し、世界への道を開いてくれた支援者の中込正典氏を大久保に引き合わせてくれるのです。
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 長島は「自分が目指すのはWGP、光はWSBで、目標が違う。同じものを目標としていたら紹介はしない」と言いますが、大久保のレースへの思いを知る仲間として、苦境から救いたかったのだと思います。また、きっかけをくれたのは長島ですが、結果として支援を引き出せたのは、大久保の魅力があったからでもあります。中込氏は「ライダーの可能性だけでなく、自分でチームを見つけて交渉してきた大久保の行動力を買った」と語っていました。

 大久保は2016年、念願のWSBへと近づきます。併催のスーパースポーツ世界選手権(WSS)への参戦を開始します。2019年にはランキング5位へと躍進し、タイトル争いを期待される活躍を示します。ですが、翌2020年にチームを移籍、体制が整わず、それが引き金となってケガを負い、ランキング22位と低迷します。
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 そして今季、所属チームを探す大久保に長島から「モトE参戦のライダーを探している」と連絡が入ります。大久保は積極的に自身をアピールしたおかげで売り込みに成功、今季は「アジョモータースポーツ」からモトEへの参戦が決まりました。すでにテストを終え、4月に渡欧、いよいよ5月開幕を迎えます。

 「モトEはこれからのレースで、ずっと興味がありました。挑戦できることがうれしい。テストでは真ん中くらいのタイムで、これからという感じですが、ライダーの工夫次第でタイムアップできるるし、勝負ができる可能性があると思えました。マシンは重量があって、取り扱いはこれまでと同じとはいきませんが、それも楽しんで、自分のものにしていきたい」
 高校時代は生徒会長で、文化祭で女装するなどイベント盛り上げに努め、WSS参戦時代にもファンサービスで檀上に立って、歌ったり踊ったりで、ファンの喝采を集め、ニックネームは「シンガー」。引っ込み思案の奥ゆかしい日本人というイメージを変えました。ロシアやウクライナ、ベラルーシなどにも出かけ、人脈を広げています。

 不思議な魅力で、多くの人に愛され、大久保流にライダー人生を力強く歩む姿は、眩しいくらい輝いています。今も「いつかはWSBへ」という夢を忘れてはいません。まずはモトEで、その存在感を示そうとしています。

 予定通りのカレンダーなら、WGPと併催で5月2日スペインで開幕し、全6戦7レースが予定されています。エントリーリストには、11チームから18名がエントリーし、昨年王者のジョルディ・トーレス、2位で初代王者のマッテオ・フェラーリ、3位のドミニク・エガーターといったランキング上位陣は継続参戦予定。大久保の走りでどこまで食い込めるか、新たな挑戦に注目です。

 そんな大久保から「哲には感謝している」ってポツリとひとこと。その言葉を長島に伝えると「そんなこと、言われたことない」と照れていました。長島は今季ライダー浪人中。彼もまた、WGP復帰を果たしてもらわなければならない逸材です。
2013年、トーチュウでシリーズ報告と来季の誓い
2016年、鈴鹿8耐テスト走行でのショートインタビュー