赤松孝撮影
赤松孝撮影
 4月3日、4日に開催された全日本ロードレース選手権開幕戦(ツインリンクもてぎ)で、「篠崎佐助」の名前をMFJ CUP JP250クラスに見つけ、最初は「同姓同名のライダーかなぁ〜。あの佐助に憧れて、名前を付けたのだろうか…」と思いました。少し前、期待を集めていたライダーでしたが、2014年を最後にエントリーリストでその名前を見つけることがなかったからです。ですがそのライダーは、7年ぶりにレース復帰した本人だったのです。

 篠崎はチーム「TEAM TEC2 & YSS」のライダーとして、HONDACBR250RRを駆り、2016年に新設されたJP250クラスに参戦しています。このクラスは、アジアロードレース選手権でも2015年から250クラス(AP250)が開催され、ロードレース競技者拡大を目的として始まったもの。また、ローコストで参加しやすいため、ステップアップを目指す若手ライダーはたち向けでもあり、一方でベテランライダーも参加し、見ごたえのある戦いを繰り広げられています。ブランクのあるライダーが、すぐに活躍できるクラスではないのです。

 そして開幕戦もてぎの予選、全27台による熾烈なアタック合戦を制し、篠崎はポールポジションを獲得、存在感を示します。決勝レースでもホールショットを奪い、トップ争いを繰り広げます。レース中盤、7台のトップ集団が順位を入れ替えながら周回を重ね、迎えた最終ラップ、中沢寿寛が再びトップに浮上、ダウンヒルから90度コーナーで篠崎が中沢に迫り、首位奪還、そのまま最後まで逃げ切り優勝を飾ります。ブランクを吹き飛ばす快進撃に、誰もが目を見張りました。
 篠崎は将来を嘱望されたライダーで、その速さは全日本デビュー前から注目を集めていました。忍者“猿飛佐助”と同じ名前で、イメージもそのままに、軽業師のような身軽さで、縦横無尽にライバルを抜き去る走りを見せていました。2008年にはレッドブル・モトGP・ルーキーズカップに参戦するなど、早くから海外レースを経験、2010年には全日本GP125のランキング4位と、ヤマハの次世代エースライダーと目され、その活躍が認められて大学に推薦入学を決め、未来に向かって力強く歩んでいました。

 当時はレース資金を稼ぐため、アルバイトもしていました。今季スーパーバイク世界選手権参戦を決めた野左根航汰やスペインスーパーバイク選手権で活躍する浦本修充と一緒に、「俺がリーダーで、サブが修充で、航汰は、まー、いるだけって感じだけど、資材を運ぶバイトを泥だらけホコリまみれでやっています。俺らは地下メン(漫画「カイジ」に登場する地下の労働施設で働く人)です」と言いながら、過酷なバイトも、将来を夢見る若いライダーたちにはどこか楽しげに見えました。

 ですが、プライベートライダーから這い上がることは、なかなか難しかった思います。2011年から慣れないST600クラスに参戦、転倒やトラブルが続く辛いシーズンに。いつかのレースで、うつむいた篠崎の目から大粒の涙がハラハラと落ちる姿を見て、その光景が胸を打ち、声をかけることができませんでした。そして2014年以降、篠崎の姿をサーキットで見ることはなくなりました。風の便りで、結婚して子供ができたと聞き、違う人生を歩み始めたことを知って、あのヒラヒラと舞うようにライバルを抜いていく篠崎のライディングはもう見ることができないのだと、心の底から寂しさを感じていました。
 そんな篠崎の走りを再び見ることができるなんて、思ってもみないことでした。そしてなんと、この7年ぶりの快挙を成し遂げるまでの準備期間は、たった1か月しかなかったのだそう。1か月前に参戦の打診を受け、篠崎は「俺に声をかけてくれたことに驚いたけど、うれしい気持ちもあった。まず家族と会社の了解がなければ始められない。反対されるかなと思っていたけど、家族も(会社の)社長も『やってみたら』と応援してくれることになった」とのこと。そして参戦へ決意を固め、「出るからには勝ちたい。がっかりさせたくない」と、まずは現役時代に比べると15キロ増えた体重を1ケ月で8キロも減量し、現役時代のツナギが着られる体形に戻しました。

 ただ、体型が戻ったとはいえ、そう簡単に以前の走りができるのか?決勝前も観戦に訪れていたレース仲間だった長島哲太、大久保光に初心者のようなライディングの質問をしていましたが、実際のレースでは、90度の攻防はさすがのひとこと。「滅茶苦茶、怖かった」と照れていましたが、現役時代と遜色ない見事な勝利でした。

 現在は、株式会社エムエスビーの機械科課長を務め、今回の復帰戦には社長や社員さんたちが大挙して応援に駆け付け、奥様はグリッドで傘をさしてくれていました。この7年、全くレースと無縁の生活を送りながら、隠すことのできない才能がほとばしるレースを見せた篠崎、今季は周囲の支援を受け、参戦継続予定とのことです。
もてぎで若手ライダーが合同トレーニング(2014年1月27日)