“ポップ”の系譜、その歴史に新たな1ページ刻む
 今回は、FIM世界耐久選手権(EWC)2021EWC開幕戦としてフランスのルマン、ブガッティサーキットで開催された「第44回ルマン24時間レース」のお話です。今季、昨年のルマン覇者、F.C.C. TSR Honda Franceに高橋裕紀が加わり、ヨシムラがSuzuki Endurance Racing Team(SERT)とジョイントして「ヨシムラSERTモチュール」として参戦、例年以上に注目を集めた大会でした。
 予選はYART Yamaha Official Team EWCが平均タイム1分35秒804を記録し、ポールポジション(PP)を獲得。2番手にはヨシムラSERTモチュール(グレッグ・ブラック/チャビエル・シメオン/シルバン・ギュントーリ組)が付け、TSRホンダは6番手となりました。

 ヨシムラの加藤陽平チームディレクター(TD)は、「初日の走行では暫定PPで、予選PPを狙える力はあったが、タイムアタックの最中に渋滞があって、うまくタイミングを掴むことができなかった。ただ、もちろんPPが良いが、耐久レースでは2番グリッドでも結果にが大きな影響があるわけではない。トップを狙う力があることが重要で、それが自分たちにはあった」と振り返ります。
 そして、46台が出場した決勝レース、序盤はYARTヤマハとヨシムラSERTモチュールの一騎打ちに。その後、YARTヤマハがトラブルでリタイヤすると、ヨシムラSERTモチュールが単独首位に立ちます。12時間経過した時点では、すでに10台がリタイヤという過酷な状況も、ヨシムラSERTモチュール、その5周遅れの2番手にTSRホンダ、3番手は6週遅れのSRCカワサキが続きます。

 24時間耐久レースにおいて、5周のビハインドは決して安心できるものではありません。TSRホンダは、その差を4周と詰め、ジリジリと追い上げてきますが、ヨシムラSERTモチュールのペースは安定、再びTSRホンダを突き放し5周差に戻します。

 18時間が経過したころ、TSRホンダにトラブル発生、ピットに留まることを余儀なくされます。TSRホンダは6番手でコース復帰しますが、勝利は遠ざかり、その後の転倒もあり、10番手からの追い上げになりました。

 夜が明けて朝、太陽が昇り、眩しい陽光の中、24時間の戦いが終わりを迎え、ヨシムラSERTモチュールは855ラップを周回、優勝のチェッカーを切ったのです。 2位は8周差のSRCカワサキ、3位が13周差でBMWモトラッド。TSRホンダは10位でレースを終えました。
 加藤TDは「序盤はYARTヤマハとのバトルがあったが、その後は計画通り、全てが順調だった。こんな理想的なレースができたら良いと思っていたが、走る前は不安も重圧もあって緊張していた。それがこんな完璧なレースになるなんて…。これまでのレース人生で、こんなレースを経験したことがないと言えるくらいパーフェクトな優勝だった。ヨシムラとSERT、スズキの完璧な勝利だ」と語りました。

 SERTにとってはルマン24時間耐久優勝は2015年以来であり、その喜びようは加藤TDも驚くほどで、スタッフが感涙する姿に「SERTの本拠地はルマンなので、ヨシムラが鈴鹿8耐で勝つのと同じ感動なのだと思うと、その気持ちが良くかわった」と喜びを深くしました。

 24時間耐久を戦うスタッフたちは、決勝日の朝に起きてサーキットへ向かい、午後3時スタート、翌日午後3時にチェッカー、そこから会見もあって、片付けなどをして、宿に戻るのは夜。ですから、40時間近く起きているわけで、その疲労はたいへんなものです。加藤TDも宿に戻って、気が付いたら朝だったと言っていました。ホテルのロビーに降りたら、宿のオーナーが地元の新聞を差し出し、健闘を飛び切りの笑顔で讃えてくれたそうです。加藤TDは「紙面では、全仏オープンで勝ったテニスのノバク・ジョコビッチより、ヨシムラSERTモチュールのルマン優勝の記事のほうが大きく出ていて驚いた」そうです。
 大きな決断のもと、EWC参戦を選択し、新たなチーム体制で戦いを開始したヨシムラにとっても、SERTにとっても、スズキにとっても、記念すべき勝利となりました。EWCの歴史が、大きく動いた戦いだったのかもしれません。

 次戦は7月17日、ポルトガルで第2戦エストリル12時間耐久レースが開催されます。その後はフランス、ボルドール24時間耐久レースを戦い、最終戦は鈴鹿8耐です。MotoGPの日本ラウンドの中止が発表され不安が増しますが、鈴鹿8耐が開催できるようにと願っています。
翌日のルマン地元紙(加藤TD提供)
翌日のルマン地元紙(加藤TD提供)